抄録
症例は52歳,男性. 15年の経過の眼症状を欠く不全型ベーチェット病の経過中,入院1年前より炎症症状の増悪とともに四肢先端の疼痛,冷感,知覚低下をきたした.入院時,四肢の筋力低下と四肢先端の知覚低下を認めたが,脳神経の異常や中枢神経症状は認めなかった.末梢神経伝導速度は著明に低下し,腓腹神経生検では中小動脈の血管炎に基づく多発性単神経炎の像を認めた.またサーモグラフィーにて手指先端の皮膚温の低下を認めたが, RIアンギオグラフィーでは大血管の閉塞などは認めなかった.非ステロイド系消炎剤,コルヒチン,プロスタグランディンの投与により,炎症症状や手指の冷感は軽快し,末梢神経炎も改善した.ベーチェット病では,中小動脈の血管炎に基づく末梢神経炎をきたすことは稀である.本症例はベーチェット病においても中小動脈の病変も惹起しうることを示唆し,血管炎の成因や分類を考えるうえでも重要な症例と考えられ報告した.