抄録
血清中のIgDの存在意義およびその産生調節を知るために,正常免疫グロブリン(Ig)の低下をきたし液性免疫不全となる多発性骨髄腫における血清IgDとsuppressor T細胞との関連について検討した.多発性骨髄腫29例および健常者15例の血清IgDをELISA法にて測定した.同時に採取したヘパリン加末梢血より単核球を分離し, FACS-440によるtwo-color immunofluorescenceによりこれら単核球中のsuppressor T細胞比率を算定した.その結果,多発性骨髄腫の正常多クローンIgは, IgG (715±265mg/dl), IgA (61±47mg/dl), IgM (48±44mg/dl), IgE (49±11IU/ml)と健常者に比較し有意の低下を示した.一方血清IgDは,多発性骨髄腫で38.0±31.0μg/ml,健常者で42.0±30.0μg/mlと有意差を認めなかった.
suppressor T細胞は,マウス抗ヒト単クローン抗体を用い, CD 8およびCD 11bを合わせもつ細胞として同定した.その結果,多発性骨髄腫のうち,特にBence-Jones蛋白を伴わないものでは, suppressor T細胞/総T細胞比25.4±16.3%と健常者の4.0±3.8%の約6倍という有意差を認めた.このため多発性骨髄腫ではsuppressor T細胞の誘導がなされ,正常免疫グロブリン低下機序の一因と考えられた.一方で, IgDは他のクラスのIgと異なり変化を受けないことが判明しその産生調節機構が異なっており存在意義を異にすることが推察された.