抄録
ヒト血清中の特異的自然抗体の動態を知る目的で,正常者,全身性エリテマトーデス(SLE)患者,多発性骨髄腫患者および臍帯血清中の抗フォスフォリルコリン抗体(抗PC抗体)価を測定した.正常血清中にはELISA法で十分に検出可能なIgGおよびIgMクラス抗PC抗体が存在した.多クローン性高ガンマグロブリン血症の存在するSLE患者血清中では両クラスの抗PC抗体が増加している例が多く, IgG抗PC抗体は28%に,抗IgM抗体は16%に増加例が認められた.反対に正常免疫グロブリンの低下する骨髄腫患者血清中では大部分の例で抗PC抗体が低下していた.母体由来のIgGのみが通過すると考えられている臍帯血清でもIgMクラスのみならずIgGクラス抗PC抗体の低下があり,胎盤でなんらかの選択機構が関与しているものと考えられた.末梢血におけるPC特異的B細胞の頻度を検討したところ,正常者ではpokeweed mitogen (PWM)で刺激後約6倍に増加するが, SLE末梢血ではPWM刺激後,むしろやや減少する傾向を示した.ヒト血清中の抗PC抗体はマウスの抗PC抗体とは異なりT15 idiotypeを表現しておらず,ヒトに固有のidiotypeをもつことが推測された.