日本臨床免疫学会会誌
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多発性骨髄腫(IgA-κ)の経過中IgAリウマトイド因子(RF)が出現した1例
西成田 真柏崎 禎夫菅井 進
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1996 年 19 巻 5 号 p. 519-523

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抄録
症例は76歳,女性.主訴,失神発作,腰痛. 1986年1月,他医にて高γ-グロブリン血症を指摘された.同3月より失神発作,腰痛が出没し同7月当科入院.関節炎なし.乾燥症状なし.赤沈値1時間161mmと亢進,血色素7.8g/dl. 生化学で総蛋白9.9g/dlと上昇,免疫グロブリン値はIgA値3,440mg/dlと著明に上昇しており, IgGは612mg/dl, IgMは8mg/dlと低下.血清免疫電気泳動でM蛋白(IgA-κ)を認めた.また,骨髄穿刺では異型性のある形質細胞が29%みられた. RFなど自己抗体は全て陰性.以上より多発性骨髄腫(MM)と診断し, melphalanによる治療を開始.次第に治療抵抗性になったため, cyclophosphamide, vincristine, nimustine hydrocloride, prednisoloneによる化学療法を施行した.治療開始2年後の1988年10月, RFがネフロメトリー法で8,240IU/mlと高値を示した. RAPAは40,960倍. RF分画ではIgA RFが著増していた.この時期のM蛋白はmonoclonal antiidiotype antibodyに陽性の反応を示した.本症例では,初期にRFは陰性であり,化学療法の経過中IgA RFの著増を認めた.これに対する正確な機序を説明することは困難であるが, 1つは,本症例のIgA M蛋白は,もともとRF活性をもっており,その後,そのRF活性をマスクするようなIgA M蛋白に対するantiidiotype antibodyが産生された可能性が推測される.もう1つはクローン自体が変化した可能性である.免疫グロブリンの抗原結合部位におけるpoint mutationは,その抗原特異性やイディオタイプの発現を変化させ得る.本症例におけるRF発現の機序について,若干の考察を加えた.
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