2023 年 51 巻 6 号 p. 645-650
症例は養鶏業に従事していた右利きの26歳女性。運動不足を気にしてX-4月からトレーナー付きのスポーツジムへ通い始めた。20回のベンチプレス(10 kg)を行った翌日のX月某日起床時,右後頚部から右肩部および右側胸部に強い疼痛を自覚した。疼痛は緩徐に消失したが,右上肢挙上時の右肩部から右側胸部の重苦しさが持続したためX+7月に当科を受診した。神経診察上,右翼状肩甲を認め,MRIで右前鋸筋は萎縮していた。神経伝導検査で右前鋸筋の複合筋活動電位振幅は左の約30%で,針筋電図検査で同筋には多相性,長持続性の運動単位電位を認め早期の神経再支配を示唆する所見であった。その他の筋に特記すべき異常はなかった。臨床経過から神経痛性筋萎縮症による右長胸神経麻痺と診断し,保存的加療を行った。電気生理学的検査は,本症例の神経痛性筋萎縮症が右長胸神経単独の麻痺を呈したことを確認する上で有用であった。