臨床神経生理学
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51 巻, 6 号
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原著
  • 池田 紘二, 細江 将之, 柏原 博子, 山本 慎司, 久我 純弘
    2023 年 51 巻 6 号 p. 623-628
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2023/12/26
    ジャーナル フリー

    脳脊椎脊髄手術において経頭蓋刺激運動誘発電位(Tc-MEP)は術後麻痺を予防するために有用な術中モニタリングである。一般的に上肢Tc-MEPは導出が容易であるが,下肢Tc-MEPは導出率が低下し,特に脊椎脊髄手術において下肢Tc-MEPの導出困難症例をしばしば経験する。下肢Tc-MEPの頭部刺激部位に関しては各施設様々な刺激部位を用いており,至適刺激部位の検討は,患者の術後麻痺予防に有用であると考える。今回,下肢Tc-MEPの導出率向上を目指し,側頭方向への至適刺激部位の検討を行った。対象は脊椎脊髄手術200症例で,刺激部位は頭頂(Cz)から外側3 cm,5 cm,7 cm,9 cm,11 cmを計測し,各点から前方2 cmの5点で刺激を行った。結果は外側7 cm,前方2 cmの刺激点が最も導出率に優れ刺激閾値が低かった。外側9 cm,前方2 cmの刺激点も外側7 cm,前方2 cmと同程度の導出が可能であったが,外側3 cm,5 cm,11 cmの前方2 cmは有意に導出率が低下し刺激閾値も高かった。下肢Tc-MEPを導出するために側頭方向に電極を配置する場合は,電極間距離を広げた方が脳深部まで刺激が伝わりやすくなり,下肢Tc-MEPの導出率が向上すると考えられる。

  • アンケート結果による評価と今後のあり方
    戸島 麻耶, 大井 和起, 山中 治郎, 岡田 直, Shamima Sultana, 松橋 眞生, 池田 昭夫
    2023 年 51 巻 6 号 p. 629-636
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2023/12/26
    ジャーナル フリー

    【目的】当院では毎週の脳波所見会を,2020年3月以前は院内で対面会議形式で,2020年4月以降はWeb形式で,2023年6月時点でも同様に開催している。参加者へのアンケートによる現状評価と今後のあり方を報告する。【方法】2020, 2021年度末にインターネットシステムを用いたアンケート調査の結果を解析した。【結果】アンケート回答者/対象者は2020年38/152名,2021年75/179名だった。Web形式の利点として回答者の多い順に「どこからでも参加ができる,脳波波形が見やすい,気楽・気軽に参加できる」,問題点として「機器・回線トラブル,個人情報漏洩のリスク,参加者の緊張感の欠如」があった。今後の開催形式は,2020, 2021年度ともに回答者全員がWebのみ,またはWebと対面のハイブリッド形式を希望した。【結論】Web形式の満足度,要望度は高く,問題点を改善しながら,今後の継続が期待される。

  • 運動ニューロン疾患と筋疾患の鑑別における運動単位数推定に関する考察
    阿部 達哉, 今井 富裕, 小森 哲夫
    2023 年 51 巻 6 号 p. 637-644
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2023/12/26
    ジャーナル フリー

    運動単位数推定(MUNE)やmotor unit number index (MUNIX)は,神経筋疾患の機能的な運動単位数を評価する検査法である。今回,運動ニューロン疾患(MND)および筋疾患(MYO)において,MUNIXとMUNEを用いた運動単位数の評価の意義について検討した。対象はMND 10例,MYO 13例,健常者10名である。短母指外転筋でMUNIXとMUNEを実施し,成績を比較した。MUNIXはMNDとMYOで共に低値であったが,運動単位サイズ指標(MUSIX),MUNIXの算出に用いられる指数関数𝛼値で鑑別できる可能性がある。一方,MUNEもMNDとMYOにおいて低値であった。MUNIXやMUNEはCMAP振幅が低い場合に低値になるため,運動単位サイズを確認することが重要である。MUSIXとMUNEにおける単一運動単位電位の振幅はMNDで高値であり,MYOとの鑑別に役立つ。

症例報告
  • 中屋 亮彦, 松本 有史, 金子 仁彦, 宮澤 康一, 永野 功
    2023 年 51 巻 6 号 p. 645-650
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2023/12/26
    ジャーナル フリー

    症例は養鶏業に従事していた右利きの26歳女性。運動不足を気にしてX-4月からトレーナー付きのスポーツジムへ通い始めた。20回のベンチプレス(10 kg)を行った翌日のX月某日起床時,右後頚部から右肩部および右側胸部に強い疼痛を自覚した。疼痛は緩徐に消失したが,右上肢挙上時の右肩部から右側胸部の重苦しさが持続したためX+7月に当科を受診した。神経診察上,右翼状肩甲を認め,MRIで右前鋸筋は萎縮していた。神経伝導検査で右前鋸筋の複合筋活動電位振幅は左の約30%で,針筋電図検査で同筋には多相性,長持続性の運動単位電位を認め早期の神経再支配を示唆する所見であった。その他の筋に特記すべき異常はなかった。臨床経過から神経痛性筋萎縮症による右長胸神経麻痺と診断し,保存的加療を行った。電気生理学的検査は,本症例の神経痛性筋萎縮症が右長胸神経単独の麻痺を呈したことを確認する上で有用であった。

  • 時村 瞭, 原 涼, 久保田 暁, 石浦 浩之, 小玉 聡, 代田 悠一郎, 濱田 雅, 戸田 達史
    2023 年 51 巻 6 号 p. 651-657
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2023/12/26
    ジャーナル フリー

    症例は59歳男性。4か月の経過で進行する歩行障害と両下肢遠位の異常感覚を主訴に受診した。診察上,両下肢遠位筋筋力低下,四肢腱反射減弱,両下腿以遠の全感覚鈍麻,異常感覚を認めた。血清蛋白電気泳動法ではM蛋白は検出されなかった。神経伝導検査では尺骨神経前腕部での脱髄性所見と下肢にアクセントのある神経障害を認めた。この結果から追加検査を行ったところ,血清免疫固定電気泳動法でIgA-λ型のM蛋白を認め,血清VEGFが1526 pg/mlと上昇していた。以上からPOEMS症候群と診断した。サリドマイド・デキサメタゾン療法と自家末梢血幹細胞移植を行い,下肢筋力が僅かに改善した。神経遠位部より中間部に伝導速度の低下が目立ち,下肢にアクセントのある神経障害の合併はPOEMS症候群と他の脱髄性ニューロパチーとの鑑別に有用である。POEMS症候群を疑った場合は免疫固定電気泳動法によるM蛋白測定が必要である。

眼でみる臨床神経生理
  • 立岡 悠, 安達 智美, 河村 祐貴, 高橋 良輔, 池田 昭夫
    2023 年 51 巻 6 号 p. 658-660
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2023/12/26
    ジャーナル フリー

    脳波判読において眼球運動アーチファクトは前頭部の徐波と誤って判断されることがあり,その鑑別のためには眼電図(electrooculogram)を同時記録することが確実な方法である。一方で日常脳波判読では簡便に,①前頭極電極に対して前頭電極での振幅の減衰が急峻であり,周囲の電極への波及が乏しいこと,②眼球運動特有の波形は,徐波成分の形状が脳波としては不自然であることから,眼電図の装着なしに鑑別していることが少なくない。本症例では両側前頭極(Fp1,Fp2)に半律動性徐波を認め,他の電極への波及が乏しいことから眼球運動との鑑別を要したが,眼電図の同時記録により脳波と確認できた。本症例は,脳波の徐波成分の双極子が前頭電極に垂直ではなく前方に傾いた場合は,前頭極電極主体に電位が生じ,前頭葉由来の徐波を眼球運動と見誤る可能性を示した。このことから,両者の鑑別に迷うときはEOGの確認により正確な鑑別が可能となることが再確認された。

特集「生体磁界計測による脊髄・神経・筋活動の評価」
  • 安藤 宗治, 川端 茂徳
    2023 年 51 巻 6 号 p. 661
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2023/12/26
    ジャーナル フリー
  • 朴 正旭, 安藤 宗治, 板倉 毅, 谷 陽一, 石原 昌幸, 足立 崇, 幸原 伸夫, 谷口 慎一郎, 齋藤 貴徳
    2023 年 51 巻 6 号 p. 662-667
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2023/12/26
    ジャーナル フリー

    [目的]MNGを用いてP9が発生する潜時における生体内での電流分布を可視化し,P9発生機序の解明を行った。[方法]計測対象者は神経学的異常のない,健常男性5名(平均年齢30±3.5歳),体性感覚誘発電位(以下SEP)は手関節正中神経刺激で記録した。MNGはSEPと同様の刺激条件下に頸部から骨盤まで記録し,P9潜時の生体内電流分布の確認を行った。[結果]SEPにおけるP9頂点潜時は平均9.10±0.34 msであった。P9潜時におけるMNGの再構成電流分布は第2肋間高位の脱分極部を中心に胸郭を上下に分割し大きく循環する容積電流が観察された。[考察及び結論]今回のMNGで得られたP9潜時における電流分布では先行軸索内電流による容積電流は上部胸郭を,後行軸索内電流による容積電流は下部胸郭に分布していることから,P9の発生機序は下部胸郭から上部胸郭への容積導体の変化が可視化された。

  • 橋本 淳, 川端 茂徳, 佐々木 亨, 足立 善昭, 吉井 俊貴
    2023 年 51 巻 6 号 p. 668-673
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2023/12/26
    ジャーナル フリー

    神経磁界計測は,電流の周囲に生じる磁場を介して,生体内の神経電気活動を非侵襲的に評価する新たな神経機能評価法である。非常に感度の高い磁気センサを用いて,体表から深い位置にあり骨や軟部組織に覆われる脊髄や馬尾神経の微弱な磁場も捉えることができる。刺激法の開発や装置の改良を日々重ね,現在では全脊椎における非侵襲的神経機能評価が実現した。電流分布図を用いた定性的評価に加え,神経走行に沿った電流波形から算出する電流強度・伝導速度による定量的評価が可能であり,従来の神経生理検査では不可能であった無侵襲かつ詳細な評価をおこなえる。脊椎脊髄疾患の診断だけでなく,神経障害性疼痛の客観的評価,脊髄損傷後の経時的評価・治療効果判定など様々な神経機能評価に有用であり,今後の脊椎脊髄疾患治療の発展が期待される。

  • 赤座 実穂, 大谷 泰, 夏井 洋和, 叶内 匡, 橫田 隆徳
    2023 年 51 巻 6 号 p. 674-681
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2023/12/26
    ジャーナル フリー

    磁場測定は高い空間分解能で生体活動による電流情報を得られると注目されている。磁場の直交する3方向成分を検出するように設計され平面状に配置されたSQUID磁束計と空間フィルター法を用いて周囲の伝導率が一様でない手の筋における運動単位の電気活動評価を試みた。運動単位数推定の刺激漸増法に準じて正中神経肘部を微弱電気刺激し,短母指外転筋に全か無かの法則に従って誘発される筋活動を1つの運動単位の活動として測定し,得られた磁場信号から空間フィルター法を用いて電流を推定した。はじめに短母指外転筋が存在すると思われる部位に筋線維方向にほぼ垂直な内向き電流と筋中央付近から筋線維方向に遠位と近位へ向かう電流が同時に可視化された。これらの電流は神経筋接合部付近での活動による電流を観察していると考えられ,運動単位の大きさの定量的指標になり得るため,磁場計測が針筋電図を代替できる可能性がある。

  • 中山 健太郎, 佐藤 慎司, 幸原 伸夫
    2023 年 51 巻 6 号 p. 682-690
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2023/12/26
    ジャーナル フリー

    MNGシステムを用いて上腕部正中神経の活動電流に伴う磁界を5名10肢から計測し,その再構成電流を分析した。軸索内電流と容積電流を明瞭に視覚化することができ,両者の識別が可能であった。脱分極部から軸索内を先行するLeading current(LC)と,後行するTrailing current(TC)を生じ,軸索外に出て容積電流となり弧を描くように容積導体を回旋し脱分極部に帰還していた。軸索内電流のzero-cross潜時は脱分極部に帰還する容積電流や同部位皮膚上の陰性電位頂点とほぼ一致した。LCよりもTCの方が電流持続時間は1.4倍長く,強度のピークは0.7倍と弱かった。脱分極に伴う電流変化の中心領域(LC–TC間)は約7 cmで軸索内活動電流の全長は約19 cmと推定された。これらの結果はHodgkin and Huxley以来の神経生理学の知見とも矛盾しない。MNG計測は安定した,信頼性の高い計測法であり今後の病態生理を解明するための新たなツールとなることが期待される。

特集「柴﨑浩先生業績記念」
  • 髙橋 良輔, 辻 貞俊
    2023 年 51 巻 6 号 p. 691
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2023/12/26
    ジャーナル フリー
  • 柿木 隆介
    2023 年 51 巻 6 号 p. 692-696
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2023/12/26
    ジャーナル フリー
  • 池田 昭夫
    2023 年 51 巻 6 号 p. 697-703
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2023/12/26
    ジャーナル フリー

    柴﨑浩先生の優れた脳神経内科領域の臨床,教育,研究業績のなかから,臨床からのアプローチの凄みとして,随意運動と運動異常の中枢制御の臨床神経生理学的研究について紹介する。臨床神経生理学的手法でしかも患者さん及び正常健常者の所見を中心に世界的な研究業績を数多く挙げられた。そのなかでも,1)準備電位の逆行性加算の最中のserendipityからのJerk-locked averaging (JLA) の発見,2)皮質反射性ミオクローヌスの電気生理学的診断基準の提唱,新しいミオクローヌス病態の発見,3)随意運動に先行する運動準備電位の標準的成分の確立,4)脳内電極からの運動準備電位の記録と臨床応用,5)陰性運動現象と正常の運動抑制機構,6)頭皮脳波の⾃動解析プログタムの共同研究での開発,など枚挙にいとまがない。最後に臨床からのアプローチを患者さんの病態の解明と治療のために欠かせない柴﨑浩先生のお考えをご紹介する。

  • 花川 隆
    2023 年 51 巻 6 号 p. 704-707
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2023/12/26
    ジャーナル フリー

    柴﨑 浩先生(1939–2022)は,卓越した臨床神経生理学者であり,優れた脳神経内科医であっただけでなく,日本のヒト神経イメージング研究の開拓者でもあった。ヒトの脳の理解に基づく精神・神経疾患の病態解明を進めるためには,臨床神経生理学と神経イメージング学が相補的な役割を果たすことを非常に早い段階で看破され,神経イメージング研究に必要な人材を外部から研究室に迎え入れ,新しい研究機器を導入するために奔走された。精神・神経疾患の病態解明の基盤となる,ヒト運動,知覚,言語,認知能力の機能解剖の解明のための多くの研究を指導され,疾患研究への応用も積極的に推進された。柴﨑先生の弟子,もとい共同研究者の一人として,柴﨑先生の開拓者精神を次世代に継承するために,研究と人材育成の努力を続けていくことを誓う。

編集後記
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