抄録
臨床応用可能な腫瘍関連蛋白質の同定を目的に2次元電気泳動法および質量分析によるプロテオーム解析を,肺癌を材料に行ってきた。
【2次元電気泳動法による肺癌組織の解析】原発性肺癌は発生母細胞のちがいから形態学的に大きく4種類の組織型に分類されている。組織型ごとに特有の蛋白質発現パターンがないか検討し、各組織型特異的と見られる蛋白質(組織分化関連蛋白質)を同定した。これらの組織分化関連蛋白の発現に基づき肺癌を分類することは腫瘍の生物学的特性をより反映した分類になる可能がある。また、この解析によって同定されたnapsin Aは原発性肺腺癌に高発現し、II型肺胞上皮および一部の尿細管で発現する。しかしながら腫瘍細胞では原発性肺腺癌と一部の大細胞癌でのみ発現し、腎癌をはじめとした他臓器腺癌での発現は認めなかった。またnapsin Aは肺腺癌患者血漿中でも検出されたが、肺炎症性疾患でも高値を示すため肺腺癌早期診断のバイオマーカーとはなりえなかった。
【肺腺癌患者血漿の解析】肺腺癌早期診断のバイオマーカー探索を目的に腺癌患者血漿と正常者血漿の蛋白質発現の比較解析を行った。血漿中のアルブミン、グロブリンを除去後LC-MS/MSによる解析を行い、両群間で強度的に統計学的に有意差のあるシグネルを検出し、蛋白質分子の同定まで行った。複数のバイオマーカー候補は検出されるもののいずれも古典的な血漿蛋白質が多く、tissue leakageと考えられる蛋白質分子の検出はかなり困難であった。古典的な血漿蛋白質の存在は極微量のtissue leakageによると考えられる蛋白質の解析を困難にしている。LCの多次元化などが課題として考えられる。