映画研究
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文化大革命後における香港左派映画の戦略
『碧水寒山奪命金』の風景描写を中心に
雑賀 広海
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2020 年 15 巻 p. 74-95

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抄録
本論文は、香港の左派映画に注目する。香港映画史における左派映画とは、冷戦期に中国共産党を支持していた映画会社とその作品を意味する。対する右派は国民党を支持し、世界中の広い市場を射程にしていた。第二次世界大戦後しばらくは順調に映画製作をしていた左派は、中国で文化大革命が起きると、その影響で苦境に立たされる。文革が終結して改革開放路線に変わると、左派は中国各地に遠征して、右派には撮影できない中国の風景を作品に取り入れようとした。その目的は、香港の観客には珍しい風景を強調するためだけではなく、右派が描く中国のイメージを実景で更新しようとしたためでもある。本論文は、左派系の『碧水寒山奪命金』と右派系の胡金銓監督作品で描かれる風景を、①人物と風景の画面構成、②アクション・シーン、③仏教思想のイメージという三つの視点から比較する。そこから導出されるのは、『碧水寒山奪命金』における、中国内地の広大さとは矛盾するような、自由を制限して身体 を束縛する風景描写である。
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© 2020 日本映画学会
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