熱測定
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バイオナノマシンの1分子計測とエネルギー論
西山 雅祥原田 崇広
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2005 年 32 巻 2 号 p. 86-94

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抄録
「動き」は生命の基本的な特徴である。この生体機能を生み出しているのは,細胞の中に存在する分子モーターである。分子モーターはアデノシン3リン酸(ATP)分子の加水分解反応によって取り出したエネルギーをつかって力を生み出す酵素である。化学-力学エネルギー変換の機構については多くの研究が行われてきたが,いまだ解明されていない。この解説では,キネシン分子が微小管に沿って一方向に運動するメカニズムを明らかにするために筆者らが用いた,実験及び理論的アプローチを紹介する。我々は,新しい一分子検出法を用いて,キネシン分子の滑り運動の素過程の検出を行い,その運動特性を解析した。その結果,キネシンの一方向性の運動は,確率的な過程を経て産み出されていることが明らかになった。このような確率的な運動をエネルギー論的な立場から説明するため,我々は,非平衡統計力学に基づいた現象論的枠組みを新たに構築し,キネシンの滑り運動におけるエネルギー収支を決定した。その結果,ATP加水分解反応によって得られたエネルギーは,効果的に一方向性の運動を産み出すことに使われていることが明らかになった。我々が開発した実験的,理論的手法は,ナノワールドにおける熱力学を理解するための端緒となることが期待される。
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