症例は76歳女性である.左ワレンベルグ症候群 (WS) により眩暈,左上下肢の失調,構音障害および嚥下障害を呈した.眩暈と失調は軽減し歩行可能になったが,嚥下障害は強く残存した.嚥下造影検査で食道入口部開大不全を認め,バルーンカテーテルによる食道入口部の拡張訓練を導入した.バルーン訓練を5ヶ月間続けたが経口摂取が不能であり嚥下機能改善手術の適応と考えられた.嚥下造影検査で喉頭挙上が概ね良好なこと,高齢であり手術の侵襲を少なくしたいこと,気管切開を拒否したことから気管切開を要する喉頭挙上術 (LS) は施行せず輪状咽頭筋切除術 (CM) のみを施行した.しかし,CMで咽頭通過は改善せず,むしろ嘔吐が出現するようになった.経管栄養を半固形化することで嘔吐が改善し,強い摂食希望から気管切開を受容したので喉頭挙上術 (LS) を追加した.LSの施行後は下顎を前方へ突出することで食道入口部が開大し (随意的上食道口の開大),食塊は重力により食道へ通過するようになった.3食とも経口摂取が可能となり,経管栄養は不要となった.WSによる嚥下障害ではCM単独で咽頭通過が改善する例とLSの併用まで必要とする例があるが,明確な基準はない.WSの嚥下障害にCMとLSを二期的に施行した報告はなく,嚥下機能改善手術の適応を考える上で貴重な症例と考え報告した.