日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
10 巻, 1 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
総説
原著
  • ―ガムシロップを用いて―
    尾島 麻希, 舘村 卓, 奥野 健太郎, 野原 幹司
    2006 年 10 巻 1 号 p. 12-21
    発行日: 2006/04/30
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    【目的】食塊が口腔から咽頭へ抽送される段階での口峡部の開放程度や咽頭への送り込みの調節は,抽送される食塊の量によって異なることが考えられる.口蓋舌筋は,口腔と咽頭との境界にある前口蓋弓に存在し,舌と軟口蓋の両方に付着することから,口腔から咽頭への移行段階での口峡部の開大・狭小が嚥下量によって調整されるならば,口蓋舌筋活動も嚥下量に影響されると考えられる.本研究では,嚥下時の口腔から咽頭への移行段階での口峡部の開大・狭小運動の調節機序の一端を明らかにするために,嚥下量を変化させた場合の口蓋舌筋活動について検討した.

    【方法】健常成人7名を対象にした.予め検討した各被験者の至適嚥下量の1/8,1/4,1/2,1,3/2(5/4)倍量のガムシロップ(糖度8.9%)を嚥下させた場合の口蓋舌筋活動を採取した.各被験者の全作業を通じて得られた筋活動値の最大値を100%として,各筋活動値を換算して得られた% Peak EMGを筋活動値とし,嚥下量と筋活動値の関係を検討した.また,口蓋舌筋活動と軟口蓋挙上運動の時間的関係を見るため,口蓋帆挙筋活動を同時に採取し分析した.

    【結果】口蓋舌筋活動の積分波形のピークの数は,同一被験者内の同一負荷量においても1個もしくは2個であり,一貫性はなかった.口蓋帆挙筋活動のピークが示される時刻を基準時とすると,ピークが1個の場合のピークの時刻とピークが2個の場合の2個目のピークの時刻は近似したことから,同様の運動によるものと考えられた.口蓋帆挙筋活動のピークとほぼ同時かやや遅れて出現する口蓋舌筋活動のピークは,口蓋帆挙筋活動に先立って出現するピークと比較して有意に大きい筋活動値を示した.本研究の結果から,口蓋舌筋活動は,嚥下過程での口腔期から咽頭期に移行する段階で生じると考えられた.至適嚥下量に基づく嚥下量と筋活動値に有意な相関を示す被験者と示さない被験者の2型があることが示された.

  • 新井 香奈子
    2006 年 10 巻 1 号 p. 22-30
    発行日: 2006/04/30
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究の目的は,訪問看護における摂食・嚥下障害者の主介護者に対する援助と課題について明らかにすることである.

    【方法】摂食・嚥下障害に対する看護援助に取り組んでいる訪問看護師7名に対し,半構成的質問紙によるインタビューを実施し,質的帰納的に分析を行った.

    【結果】分析の結果,「在宅生活の早期安定化に向けた摂食・嚥下障害の予防的対応と環境づくり」, 「介護状況の見極めと負担軽減の工夫」, 「摂食・嚥下障害の理解と訓練継続に向けた援助」, 「緊急時対応の明確化と体制整備」, 「摂食・嚥下障害者の食への思いと主介護者の思いの尊重」, 「保健・医療・福祉職間での連携と在宅ケアサービスの活用」という6つの訪問看護援助と,「摂食・嚥下障害者と主介護者の思いを尊重した支援」, 「在宅における摂食・嚥下障害の診断と援助体制の確立」, 「摂食・嚥下障害に対する保健・医療・福祉職種,および一般市民の理解の拡充」という3つの課題が抽出された.

    【考察】3つの課題を解決していく方向性として,食の援助に対する自分自身の考えをしっかりと持ち合わせ摂食・嚥下障害者および主介護者と向き合っていくこと.また他職種と顔を突き合わせ,在宅での摂食・嚥下障害の取り組みをともに考えていくという姿勢が重要であろうと考えられた.

  • 深田 順子, 鎌倉 やよい, 万歳 登茂子, 北池 正
    2006 年 10 巻 1 号 p. 31-42
    発行日: 2006/04/30
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,高齢者における嚥下障害のリスクを一次スクリーニングするために嚥下障害リスク評価尺度を改訂することと,さらに二次スクリーニング検査も用いたスクリーニングするシステムを検討することであった.本研究は,愛知県立看護大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施された.高齢者2528名に対して,一次スクリーニングとして嚥下障害リスク評価尺度改訂版を調査し759名の有効回答を得た.そのうち協力が得られた71名に対し,二次スクリーニングとして反復唾液嚥下テスト,改訂水飲みテスト,フードテストを,至適基準として嚥下造影検査を実施し,以下の結果を得た.

    1.評価尺度改訂版は,再現性,項目分析などの検討の結果,23項目が選定された.因子分析により第1因子:咽頭期の嚥下障害,第2因子:誤嚥,第3因子:準備・口腔期の嚥下障害,第4因子:食道期の嚥下障害が抽出され,構成概念妥当性を確認した.尺度全体ではCronbach's α係数は0.92で,再テスト法による信頼性はr=0.85で信頼性を確認した.妥当性・信頼性は共に改訂前に比べ増加した.

    2.嚥下造影検査を至適基準としたとき,評価尺度改訂版の合計得点のcut-off pointを6点とすると,敏感度は57.1%,特異度は56.0%であった.

    3.一次・二次スクリーニング検査の結果と年齢,性別,嚥下に影響する疾患・薬物を独立変数とし,嚥下造影検査の結果を従属変数としてロジスティック回帰分析を行った.その結果,性別は有意に関係しオッズ比が12.2であった.性別と,オッズ比が高かった嚥下に影響する薬物・疾患,評価尺度改訂版,フードテストから求めた嚥下障害リスクの予測値は,嚥下造影検査による嚥下障害リスク有無の判定を76.1%予測できた.

    以上から,性別,嚥下に影響する薬物・疾患,評価尺度改訂版,フードテストは,嚥下障害リスクをスクリーニングするシステムになる可能性が示唆された.

  • ―PEGとの比較から―
    重白 啓司, 原田 英昭, 清水 洋子, 岡尾 晃一, 長野 麻未
    2006 年 10 巻 1 号 p. 43-51
    発行日: 2006/04/30
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    当院56床の療養型病棟における平成12年4月から,平成17年3月までの5年間のIOC (Intermittent Oral Catheterization feeding:間欠的口腔カテーテル栄養法) の取り組みをPEG(経皮内視鏡的胃瘻造設術:Percutaneous Endoscopic Gastrostomy) との比較から報告する.当院では原則持続的経鼻胃経管栄養法 (CNG) は施行しない.この5年間の当院における経管栄養法の内,IOCは43例,PEGは33例であった.IOC施行例 (以下IOC群と称す) の内7例 (16.3%) が3食経口摂取可能となり,2例が2食,3例がおやつならびに1食経口摂取可能 (IOCとの併用) となった.PEG施行例 (以下PEG群と称す) ではわずかに2例 (6.1%) においてのみ3食経口摂取可能となり,2食経口摂取可能となったのも1例で,おやつならびに1食経口摂取可能となった例も1例のみであった.一部でも経口摂取可能となる割合は,IOC群 (37.2%),PEG群 (12.1%) とIOC群のほうが有意に高かった.喀痰中のMRSA陽性の割合はIOC群17例 (39.5%),PEG群17例 (51.5%) とわずかにPEG群の方が高いが有意差はなかった.この5年間の死亡者数は,IOC群17名 (39.5%),PEG群22名 (66.7%) と有意にPEGの死亡率が高かった.死因として誤嚥性肺炎が原因の死亡者数はIOC群6例 (14.0%),PEG群13例 (39.4%) と有意にPEG群の方が高かった.死因としての肺炎を除外するとIOC,PEG両群の死亡率はほぼ同じであった.現在安易に胃瘻が造設されている.IOCとPEGを比較すると,IOCは安価ですぐれた経管栄養法であり,PEGを施行する前に是非一度試みるべき栄養法であると考える.

  • 柴田 斉子, 馬場 尊, 才藤 栄一, 藤井 航, 横山 通夫
    2006 年 10 巻 1 号 p. 52-61
    発行日: 2006/04/30
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    【目的】2002年に我々は,液体を含む食物における咀嚼条件下での嚥下動態を観察し,嚥下反射開始前に食塊が下咽頭にまで達する現象を報告した.この結果から咀嚼が嚥下反射惹起を抑制する可能性を考え,本研究では咀嚼が嚥下反射惹起に与える影響および,咀嚼嚥下時の喉頭・咽頭の内視鏡所見を明らかにすることを目的とした.

    【対象・方法】対象は健常成人9名 (平均年齢28.8歳) である.左鼻腔より4Frエラスティックチューブを挿入し,先端が口蓋咽頭筋に達する位置で固定した.緑色に着色した飲料水をシリンジポンプを用いて6.5ml/min,11.5ml/minの速度で注入した.舌骨上筋群の筋電図を記録し,喉頭内視鏡にて液体の流れを観察してビデオテープに録画した.注入速度,咀嚼有無,がまん有無の8条件において液体注入開始から嚥下反射惹起までの時間を計測した.

    【結果】液体注入開始から嚥下反射惹起までの時間は,注入速度およびがまんの有無の間に著しい有意差を認めたが,咀嚼の有無の問には差を認めなかった.嚥下を我慢すると,披裂が前傾,強内転し,咽頭腔が拡大する現象がすべての被験者に認められた.随意嚥下では液体が咽頭喉頭蓋ひだに達すると,あるいは片側梨状窩の半分を満たすと嚥下反射が惹起された.嚥下をがまんさせると,液体が梨状窩を満たし,披裂喉頭蓋ひだや披裂陥凹をこえて喉頭に液体が流入しようとする時点で嚥下反射が惹起された.

    【考察】咀嚼は液体注入時の嚥下反射惹起までの時間に影響を与えず,咀嚼が嚥下反射を抑制するとした仮説は否定された.嚥下をがまんするという意志による嚥下抑制課題は,誤嚥を防ぐために下咽頭の容積を増大させる能動的な咽頭の形態変化を生じさせることがわかった.これらの新たな知見を摂食・嚥下障害のリハビリテーション手法に応用することが,今後の課題である.

  • ―前額断および矢状断からの同時解析―
    後藤 志乃
    2006 年 10 巻 1 号 p. 62-71
    発行日: 2006/04/30
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    【目的】咀嚼と嚥下の協調運動の解明を目的に,摂食・嚥下過程を食塊位置によって区分し,各位相における顎運動を分析した.

    【方法】個性正常咬合を有する健常成人12名 (28.8±3.7歳) を対象に,バリウムクッキー8gを自由咀嚼させ,VFにて側面像を,DVカメラにて前額断でみた顎運動を同時記録した.食塊位置により食物移送の各位相を以下の4期に分類した.Stage 1 transport:捕食された食物が臼歯部へと運ばれる区間,Pr㏄essing (以下,Process):食物が噛み砕かれ唾液と混合される区間,Stage 2 transport (以下,Stage 2):食塊が口峡を越えてから喉頭蓋谷に達するまでの区間,Hypopharyngeal transit time:食塊が喉頭蓋谷を越えてから食道入口部を通過する区間.咀嚼時顎運動パターンから,側方移動が大きいType 1と側方移動が小さいType 2に分類し,ProcessとStage 2における咀嚼サイクルの最大開口量,側方変位量,咀嚼周期,位相時間,総咀嚼・嚥下時間に対する各位相時間の割合 (以下,位相時間率) について検討した.

    【結果】Type 1はType 2よりもProcess時間が有意に短かった.Type 1では,ProcessとStage 2の間で最大開口量,側方変位量,咀嚼周期に変化を認めず,時間的差異も認めなかった.Type 2では,Processに比べてStage 2の位相時間,位相時間率,最大開口量が有意に縮小した.

    【考察】咀嚼時顎運動パターンの違いによって顎運動と食物移送動態が異なることが示唆された.

臨床報告
  • 谷口 洋, 藤島 一郎, 高橋 博達, 大野 綾, 黒田 百合, 関 敦郎
    2006 年 10 巻 1 号 p. 72-76
    発行日: 2006/04/30
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    症例は76歳女性である.左ワレンベルグ症候群 (WS) により眩暈,左上下肢の失調,構音障害および嚥下障害を呈した.眩暈と失調は軽減し歩行可能になったが,嚥下障害は強く残存した.嚥下造影検査で食道入口部開大不全を認め,バルーンカテーテルによる食道入口部の拡張訓練を導入した.バルーン訓練を5ヶ月間続けたが経口摂取が不能であり嚥下機能改善手術の適応と考えられた.嚥下造影検査で喉頭挙上が概ね良好なこと,高齢であり手術の侵襲を少なくしたいこと,気管切開を拒否したことから気管切開を要する喉頭挙上術 (LS) は施行せず輪状咽頭筋切除術 (CM) のみを施行した.しかし,CMで咽頭通過は改善せず,むしろ嘔吐が出現するようになった.経管栄養を半固形化することで嘔吐が改善し,強い摂食希望から気管切開を受容したので喉頭挙上術 (LS) を追加した.LSの施行後は下顎を前方へ突出することで食道入口部が開大し (随意的上食道口の開大),食塊は重力により食道へ通過するようになった.3食とも経口摂取が可能となり,経管栄養は不要となった.WSによる嚥下障害ではCM単独で咽頭通過が改善する例とLSの併用まで必要とする例があるが,明確な基準はない.WSの嚥下障害にCMとLSを二期的に施行した報告はなく,嚥下機能改善手術の適応を考える上で貴重な症例と考え報告した.

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