高齢者にとって食べにくい餅の咀嚼・嚥下特性を客観的に明らかにするため,市販の標準的な餅と咀嚼・嚥下困難者用に開発された製品を,機器によるテクスチャー測定と,健常被験者による摂食時の咀嚼筋筋電位,嚥下時の喉頭運動及び嚥下音測定によって比較した.食べやすいとされた製品は標準的な餅よりも,機器測定におけるかたさ値および試料圧縮に要する仕事量が小さく,経時的な物性変化が少なかった.また,咀嚼測定から,咀嚼時間を著しく短縮させ,筋電位振幅を有意に減少させることによって,嚥下までの咀嚼量が少ないことがわかった.嚥下時の舌骨上筋群の筋電位においても,この製品は標準的な餅よりも有意に短い活動時間を示し,食塊の口腔内への付着しにくさを反映していた.一方,嚥下時の音,喉頭運動に有意な試料差は観察されず,十分な咀嚼を行うことができる健常者においては,咽頭期における飲み込みやすさに差がないことが示唆された.摂食前の食品物性が異なっていても,食べにくい食品をより多く咀嚼することにより,嚥下時には物性差がほとんどなくなったためではないかと考えられた.