日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
10 巻, 2 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
原著
  • 神山 かおる, 澤田 寛子, 野仲 美保, 中城 巳佐男
    2006 年10 巻2 号 p. 115-124
    発行日: 2006/08/31
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    高齢者にとって食べにくい餅の咀嚼・嚥下特性を客観的に明らかにするため,市販の標準的な餅と咀嚼・嚥下困難者用に開発された製品を,機器によるテクスチャー測定と,健常被験者による摂食時の咀嚼筋筋電位,嚥下時の喉頭運動及び嚥下音測定によって比較した.食べやすいとされた製品は標準的な餅よりも,機器測定におけるかたさ値および試料圧縮に要する仕事量が小さく,経時的な物性変化が少なかった.また,咀嚼測定から,咀嚼時間を著しく短縮させ,筋電位振幅を有意に減少させることによって,嚥下までの咀嚼量が少ないことがわかった.嚥下時の舌骨上筋群の筋電位においても,この製品は標準的な餅よりも有意に短い活動時間を示し,食塊の口腔内への付着しにくさを反映していた.一方,嚥下時の音,喉頭運動に有意な試料差は観察されず,十分な咀嚼を行うことができる健常者においては,咽頭期における飲み込みやすさに差がないことが示唆された.摂食前の食品物性が異なっていても,食べにくい食品をより多く咀嚼することにより,嚥下時には物性差がほとんどなくなったためではないかと考えられた.

  • 大野 綾, 藤島 一郎, 大野 友久, 高橋 博達, 黒田 百合
    2006 年10 巻2 号 p. 125-134
    発行日: 2006/08/31
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    【目的】経鼻経管栄養チューブが嚥下に与える影響について,嚥下造影所見を録画した動画をもとに検討した.

    【対象と方法】対象は平成5年以降に当院で行われた嚥下造影検査のうち,チューブ留置と抜去後で,他については同じ条件下で検査が行われ,両者の比較が可能であった63件である.録画した画像を熟練した検者2名で検討し,変化の有無とその内容を記載した.改善があった場合,1所見に対し1点として加算して,全体の変化の程度をスコアリングした.抜去後に改善した所見とチューブのサイズ,走行状態との関係を検討した.

    【結果と考察】チューブ抜去後の変化として,喉頭蓋反転改善28件,咽頭残留改善14件,食塊通過改善5件,誤嚥改善9件,嚥下可能となったもの5件が認められた.チューブサイズとの関係をみると,喉頭蓋反転に関して太いチューブで有意に抜去後改善するものが多く,スコアに関しても10Fr以下と12Fr以上で有意差が認められた.咽頭のチューブ走行状態との関係をみると,喉頭蓋反転,咽頭残留,スコアに関して鼻腔と同側の食道入口部に挿入された同側群より交差して反対側の食道入口部に挿入された交差群のほうが有意に改善するものが多かった.走行別にチューブサイズを比較すると,同側群では喉頭蓋反転に関して太いチューブを抜去後有意に改善,スコアに関しても12Fr以上のチューブで有意に改善した.交差群では誤嚥に関して12Fr以上の太いチューブで有意に改善した.チューブのサイズ別に走行状態で比較すると,8Frでは喉頭蓋反転において交差群のほうが有意に改善した.10Fr以上のものでは有意差はないものの交差群のほうが改善するものが多かった.

    本研究で,摂食・嚥下障害患者において経鼻経管栄養チューブが嚥下に影響を与えることが確認された.特にチューブのサイズが大きいほど,また交差して留置されている場合に影響を及ぼしやすいことが示唆された.

  • 佐々生 康宏, 舘村 卓, 野原 幹司, 和田 健
    2006 年10 巻2 号 p. 135-141
    発行日: 2006/08/31
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    【目的】摂食・嚥下障害例の中には,口唇機能の障害が原因となる場合があり,口唇機能向上のための訓練が必要とされる.今回,訓練具を用いた口唇への負荷療法を考案する上で,口腔前庭に装着するプレート(口唇プレート)の厚径が口輪筋活動に及ぼす影響を調べた.

    【方法】健常成人5名を対象に,以下のような作製基準で口唇プレートを被験者ごとに作製した.すなわち,高径を上下中切歯の歯頸線間の距離,幅径を左右犬歯の遠心間の距離とし,断面形状を前方凸型にし,厚径を5.0mmから順に2.5mmずつ増加したプレートをそれぞれ作成した.厚径の最大値は,各被験者が口腔前庭に装着した時に口唇閉鎖可能な限界までとした.被験活動として,各厚径のプレートを口腔前庭に装着し,10秒間口唇閉鎖させた.上・下口輪筋筋電図は,表面電極にて双極誘導で採取し,口唇閉鎖した時点から10秒間の積分筋活動を0.5秒おきに測定した.

    【結果】プレートの厚径と上・下口輪筋活動値の順位相関係数はそれぞれ0.92~0.95 (0.93±0.01),0.90~0.98 (0.93±0.03) を示し,いずれの被験者においても有意の相関関係(p<0.01)が認められた.すなわち,口唇プレートの厚径の増加に対応して,上・下口輪筋活動が大きくなる傾向が認められた.

    【結論】口輪筋に負荷を与えることによって口唇機能を向上させる訓練を行う上で,プレートの厚径が重要な要素となる可能性が示された.

  • 新井 映子, 山村 千絵, 江川 広子, 城 斗志夫, 島田 久寛, 山田 好秋
    2006 年10 巻2 号 p. 142-151
    発行日: 2006/08/31
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    本研究では,グルテン構成たんぱく質のグルテニンとグリアジンの比率を変化させた5種類の再構成小麦粉を使用して,咀嚼・嚥下機能が減退した高齢者や摂食・嚥下障害を持つ方に適した物性を有するクッキーの調製を試みた.グルテニンとグリアジンの比率が異なるクッキーの破断特性,吸水性およびモデル食塊の物性を,機器測定と官能検査によって評価した.グリアジンとグルテニンの比率を市販小麦粉のそれに近い1:1から1:2に変えた場合,クッキーは破断歪が減少して砕けやすくなり,吸水性が向上して唾液と混ざると滑らかになった.若年健常者による官能検査においても,グリアジンとグルテニンの構成比率が1:2のクッキーは,1:1のクッキーよりも,高齢者食や介護食用のクッキーとして適していると評価された.これらの結果より,高齢者食や介護食に適するクッキーを調製するためには,グルテンに占めるグルテニンの比率を増加させるとよいことが推察された.グルテニンの増加によるクッキーのおもな物性改変要因は,グルテニンが増すことにより,生地調製時にグルテンに吸水される水分が減少し,変わりにでんぷんに吸収される水分が増加して,でんぷんの糊化が促進されたためと推察された.

研究報告
  • 黒田 百合, 藤島 一郎, 高橋 博達, 片桐 伯真, 大野 綾
    2006 年10 巻2 号 p. 152-160
    発行日: 2006/08/31
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    嚥下造影検査(videofluoroscopic examination of swallowing,以下VF)時の食道所見について統一した評価方法は提案されていない.実際の検査場面では多症例に食道残留を認めるため,今回は食道残留の分類を試み,それを用いてVF時の食道残留の評価を試みた.残留した場合は残留を除去する方法も検討した.【対象】2003年10月~2005年4月の1年半の間にVFを施行し,食道期まで観察した嚥下障害患者234例,男性160例,女性74例,平均年齢73.1歳である.原疾患は脳血管障害98例,肺炎62例などであった.【方法】VF正面像で,増粘剤でとろみをつけた40%硫酸バリウム水 3cc (粘度約5300cp) を咽頭嚥下でBest swallowを認めた体幹角度 (30度,45度,60度,90度) で嚥下してもらい,次の4項目について評価を行った.1)残留の程度 (残留1=なし~軽度残留,残留2:中等度残留,残留3:高度残留),2)残留部位 (上 (部) 1/3,中 (部) 1/3,下 (部) 1/3,上中 (部) 2/3,中下 (部) 2/3,全体) 3) 食道内逆流の有無,4)残留除去法①空嚥下を行う,②体幹角度を上げて空嚥下を追加する,③ゼラチンゼリーのスライス型食塊を丸飲みする,④40%バリウム水を飲む,など.【結果】食道残留の程度,部位は本評価法で網羅できた.食道残留は73.5% (172人) に認めた.残留部位は全体に残留するタイプが最も多く39% (68人),ついで中下 (部) 2/3が24%(41人)であった.食道内逆流は残留を認めた症例の過半数に認めた.食道残留の除去法は上記①~④の方法で効果を認めたが,症例に合わせた方法が必要であった.

短報
  • ―嚥下機能を考慮した食事の有効性について―
    高橋 智子, 増田 邦子, 川野 亜紀, 藤井 恵子, 大越 ひろ
    2006 年10 巻2 号 p. 161-168
    発行日: 2006/08/31
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    本研究では,新規に開設された特別養護老人ホームにおいて,入所対象者の摂食機能,ことに嚥下機能に対応したテクスチャーの食形態の食事をとることにより,栄養状態がどのように変化するかについて検討した.嚥下機能が良好な対象者のための食形態 Ⅰ (やわらか食),食形態 Ⅱ (やわらか一口食) のテクスチャー特性値に,ばらつきが認められた.一方,嚥下機能が低下した対象者のための食形態 Ⅲ (やわらかつぶし食),食形態 IV (やわらかゼリー・トロミ食) のテクスチャー特性は,軟らかく,凝集性が高く,均一な状態であることが判った.これらの結果から,嚥下機能に対応したテクスチャーの標準化を行い,加えて食事のテクスチャーの品質管理を調理現場で行いながら,対象者に食事を提供した.食形態別に,開設時より9ヶ月間のBMIの推移を観察した結果,平均値ではあるがいずれの食形態も,わずかながら増加傾向を示し,調査開始時よりも低下していなかった.ことに,顕著に嚥下機能が低下している食形態IVの対象者のBMIの変動率は,開設時に比べ減少した.併せて,開設9ヶ月後の対象者の上腕三頭筋皮下脂肪厚,上腕周囲長,上腕筋囲,上腕筋面積についても測定し,身体計測による栄養評価を行った.その結果,いずれの食形態の対象者の平均値も,栄養不良を示さなかった.対象者の嚥下機能に対応して経口摂取できるよう,テクスチャーが管理された食形態の食事を摂ることで,対象者の栄養状態は9ヶ月前の調査開始時と比較したところ,わずかながら良好な状態となっていることが示された.

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