2006 年 10 巻 2 号 p. 161-168
本研究では,新規に開設された特別養護老人ホームにおいて,入所対象者の摂食機能,ことに嚥下機能に対応したテクスチャーの食形態の食事をとることにより,栄養状態がどのように変化するかについて検討した.嚥下機能が良好な対象者のための食形態 Ⅰ (やわらか食),食形態 Ⅱ (やわらか一口食) のテクスチャー特性値に,ばらつきが認められた.一方,嚥下機能が低下した対象者のための食形態 Ⅲ (やわらかつぶし食),食形態 IV (やわらかゼリー・トロミ食) のテクスチャー特性は,軟らかく,凝集性が高く,均一な状態であることが判った.これらの結果から,嚥下機能に対応したテクスチャーの標準化を行い,加えて食事のテクスチャーの品質管理を調理現場で行いながら,対象者に食事を提供した.食形態別に,開設時より9ヶ月間のBMIの推移を観察した結果,平均値ではあるがいずれの食形態も,わずかながら増加傾向を示し,調査開始時よりも低下していなかった.ことに,顕著に嚥下機能が低下している食形態IVの対象者のBMIの変動率は,開設時に比べ減少した.併せて,開設9ヶ月後の対象者の上腕三頭筋皮下脂肪厚,上腕周囲長,上腕筋囲,上腕筋面積についても測定し,身体計測による栄養評価を行った.その結果,いずれの食形態の対象者の平均値も,栄養不良を示さなかった.対象者の嚥下機能に対応して経口摂取できるよう,テクスチャーが管理された食形態の食事を摂ることで,対象者の栄養状態は9ヶ月前の調査開始時と比較したところ,わずかながら良好な状態となっていることが示された.