【目的】凍結含浸法は,植物食材内部ヘペクチナーゼ等の植物組織崩壊酵素を急速に導入し,形状を保持したまま任意の硬さに制御する技術である.本報告では,食材の硬さ制御に加え,離水防止を図るため,酵素と増粘剤の同時凍結含浸について検討した.
【方法】凍結した食材を,未糊化デンプンを均一に分散させた酵素溶液で浸漬・解凍後,含浸処理を行い,酵素と未糊化デンプンを同時に食材組織内部へ導入した.酵素反応後,加熱して酵素失活とデンプンの糊化を行った.得られた食材について,硬さと離水率を測定した.
【結果】未糊化デンプンは,酵素溶液中で分散させながら含浸することで,食材組織内部にまで効率的に導入することができた.その後,加熱処理してデンプンを糊化することにより,凍結含浸食材からの離水は抑制できた.離水抑制効果は,酵素溶液に分散させる未糊化デンプン量に比例して増大した.また,未糊化デンプンは,酵素の含浸効率及び食材の軟化効果には影響を及ぼさなかった.顕微鏡観察の結果,平均粒子径の小さい未糊化デンプン種ほど,効率的に食材内部に導入できることが認められた.
【結語】粘稠性の高い溶液では,酵素を含浸することが困難なため,増粘剤を溶解した酵素溶液を用いて硬さ制御することは困難であった.そこで,未糊化状態のデンプンを酵素と同時に凍結含浸処理した後,加熱処理する方法を考案した.この結果,食材の硬さを自由に調節できるだけでなく,離水を抑制することも可能となった.さらに,食塊形成に関与する凝集性,付着性の改善効果も確認された.本技術の適用により,より安全な嚥下食,介護食の開発が期待できる.