2007 年 11 巻 1 号 p. 33-41
【目的】嚥下造影検査では,検査を行なう医療従事者がX線照射中に検査室内にとどまることが多く,被検者とともに検査者の被曝も問題になる。そこで,検査者の被曝線量を推定し,被曝の影響や放射線防護の方法を検討するため,検査場面を想定した状況で線量測定を行なった.
【方法】検査時の被検者の位置に人体型ファントムを置き,X線透視装置からX線を照射した.検査者がさまざまな位置に立つことを想定して32の地点を格子状に設定し,電離箱式線量計を用いて側面像検査時の条件で線量を測定した.そのうち1地点では,正面像検査時の条件でも測定を行なった.放射線防護器具の効果を見るため,線量計の前に防護エプロンや防護ついたてを置いた条件でも測定した.また,検査者が照射野内に手を入れた時に手の表面が受ける線量を推定するため,ファントム表面に熱蛍光線量計を貼付して測定を行なった.
【結果】側面像検査での実効線量は,1時間あたりの線量率で,被検者の正面方向に50cm離れた位置で414μSv/h,200cm離れた位置で28.4μSv/hだった.正面像検査では,線量は約1.5倍になった.エプロンやついたてを使用すると,実効線量はそれぞれ約5分の1,36分の1に低減できると推測された.照射野に手を入れた場合に手の表面が受ける放射線の等価線量は,1秒間あたりの線量率で約54μSv/secと推定された.
【考察】検査1回の時間を5分間とした場合,側面像での検査1回あたりの実効線量は,50cm離れた位置で34.5μSv,200cm離れた位置で2.37μSvとなり,これをもとに計算すると,VF従事者の被曝線量は職業人の線量限度のみならず一般公衆の線量限度を超えることもほとんどなく,また,自然放射線の地域差や航空機乗務員の被曝と比べても小さいと推測された.しかし,放射線防護器具の使用などにより,被曝を低減する努力が必要だと考えられる.