日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
11 巻, 1 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
原著
  • 韓 萌
    2007 年 11 巻 1 号 p. 3-12
    発行日: 2007/04/30
    公開日: 2021/01/16
    ジャーナル フリー

    【目的】食物の咽頭残留量に比例して老年期誤嚥の発生率が上がり,咽頭クリアランスの低下が誤嚥における危険因子の一つとなる.茎突咽頭筋はその形態から咽頭短縮の主動作筋として知られるが,咽頭クリアランス機能を持つ可能性も示唆されている.本研究は老年期の茎突咽頭筋の形態学的変化について検討することを目的とした.

    【対象と方法】89体169側の解剖体を用い,茎突咽頭筋の前後幅・左右幅から断面積を求めた.また同筋が咽頭壁に進入する角度(茎突咽頭筋角)を計測し,さらに梨状陥凹に茎突咽頭筋線維の進入率を算出した.解剖体は55歳以上74歳以下(老年期前期)と75歳以上(老年期後期)の2群に分けた.統計処理は左右差に関しては対応のあるt検定,男女差と年齢差に関しては対応のないt検定で行った.

    【結果】茎突咽頭筋は咽頭壁に進入した後,上部・中部と下部筋束に分かれて停止していた.このうち,上部筋束は口蓋扁桃床の基底部に入り,中部筋束は咽頭喉頭蓋ヒダと併走して喉頭蓋に達し,下部筋束は梨状陥凹底の粘膜下と甲状軟骨板の外側縁に達していた.茎突咽頭筋角は左側より右側が大きく,老年後期では男性より女性が有意に大きかった.茎突咽頭筋の断面積は女性において老年前期に比べ老年後期で有意に大きかった.

    【考察】喉頭は70歳以後下降することが知られており,嚥下時の喉頭挙上はそれ以前に比べ大きな負荷がかかることが予想される.今回の結果から老年期前期に比べ,老年期後期の女性では茎突咽頭筋断面積が大きいことから,加齢に伴って直筋が作業性肥大したことが示唆される.一方,男性の茎突咽頭筋角は女性より小さいことから,男性の喉頭下降幅が女性より大きいことを反映していると推測した.さらに梨状陥凹内に茎突咽頭筋が高率に進入している所見からは嚥下時の咽頭クリアランスに同筋が影響を及ぼす可能性が示唆された.

  • 堤之 達也, 岸本 一宏, 船見 孝博, 浅井 以和夫
    2007 年 11 巻 1 号 p. 13-23
    発行日: 2007/04/30
    公開日: 2021/01/16
    ジャーナル フリー

    咀嚼・嚥下困難者の水分あるいは栄養補給の目的で,多くのゲル状食品が販売されている.これらの食品には,適度な硬さで付着性が少なく,口腔内での食塊形成性に優れ,更に離水が少ないことが求められる.これらの要件を部分的に満たすゲル化剤としてゼラチンを挙げることができる.しかし,ゼラチンゲルの調製には長時間の冷蔵が必要であり,またできたゲルは25℃付近で融解するなど,介護者にとっての利便性は必ずしもよくない.

    本研究では,ゼラチン類似の力学特性(物性)を有し,かつ広い温度域,長期保存においてその変化が少なく,更には保水性の高いゲル状食品の開発を目的とした.

    ゲル化剤として,寒天,脱アシル型ジェランガム,サイリウムシードガム,およびゼラチンを用いた.ゲルの力学特性は動的粘弾性試験および貫入試験により評価した.また,ゲルの保水性を離水量から評価した.

    寒天あるいは脱アシル型ジェランガムと,サイリウムシードガムの併用ゲルはゼラチン類似の力学特性を示し,更にゼラチンに比べて温度依存性が小さかった.また,これら併用ゲルは,保存により力学特性がほとんど変化せず,離水もほとんど発生しなかった.

    一般的に寒天および脱アシル型ジェランガムのゲルは脆く,食塊形成能が低い.一方,サイリウムシードガムのゲルは弾力・付着性が強く,いずれも単独では咀噛・嚥下困難者にあまり好ましくない.本研究から,複数の素材の併用が,咀嚼・嚥下困難者に適した食感を創製する重要なアプローチであることが示された.

  • 中津 沙弥香, 柴田 賢哉, 石原 理子, 坂本 宏司
    2007 年 11 巻 1 号 p. 24-32
    発行日: 2007/04/30
    公開日: 2021/01/16
    ジャーナル フリー

    【目的】凍結含浸法は,植物食材内部ヘペクチナーゼ等の植物組織崩壊酵素を急速に導入し,形状を保持したまま任意の硬さに制御する技術である.本報告では,食材の硬さ制御に加え,離水防止を図るため,酵素と増粘剤の同時凍結含浸について検討した.

    【方法】凍結した食材を,未糊化デンプンを均一に分散させた酵素溶液で浸漬・解凍後,含浸処理を行い,酵素と未糊化デンプンを同時に食材組織内部へ導入した.酵素反応後,加熱して酵素失活とデンプンの糊化を行った.得られた食材について,硬さと離水率を測定した.

    【結果】未糊化デンプンは,酵素溶液中で分散させながら含浸することで,食材組織内部にまで効率的に導入することができた.その後,加熱処理してデンプンを糊化することにより,凍結含浸食材からの離水は抑制できた.離水抑制効果は,酵素溶液に分散させる未糊化デンプン量に比例して増大した.また,未糊化デンプンは,酵素の含浸効率及び食材の軟化効果には影響を及ぼさなかった.顕微鏡観察の結果,平均粒子径の小さい未糊化デンプン種ほど,効率的に食材内部に導入できることが認められた.

    【結語】粘稠性の高い溶液では,酵素を含浸することが困難なため,増粘剤を溶解した酵素溶液を用いて硬さ制御することは困難であった.そこで,未糊化状態のデンプンを酵素と同時に凍結含浸処理した後,加熱処理する方法を考案した.この結果,食材の硬さを自由に調節できるだけでなく,離水を抑制することも可能となった.さらに,食塊形成に関与する凝集性,付着性の改善効果も確認された.本技術の適用により,より安全な嚥下食,介護食の開発が期待できる.

  • 長谷川 純, 砂屋敷 忠, 武内 和弘
    2007 年 11 巻 1 号 p. 33-41
    発行日: 2007/04/30
    公開日: 2021/01/16
    ジャーナル フリー

    【目的】嚥下造影検査では,検査を行なう医療従事者がX線照射中に検査室内にとどまることが多く,被検者とともに検査者の被曝も問題になる。そこで,検査者の被曝線量を推定し,被曝の影響や放射線防護の方法を検討するため,検査場面を想定した状況で線量測定を行なった.

    【方法】検査時の被検者の位置に人体型ファントムを置き,X線透視装置からX線を照射した.検査者がさまざまな位置に立つことを想定して32の地点を格子状に設定し,電離箱式線量計を用いて側面像検査時の条件で線量を測定した.そのうち1地点では,正面像検査時の条件でも測定を行なった.放射線防護器具の効果を見るため,線量計の前に防護エプロンや防護ついたてを置いた条件でも測定した.また,検査者が照射野内に手を入れた時に手の表面が受ける線量を推定するため,ファントム表面に熱蛍光線量計を貼付して測定を行なった.

    【結果】側面像検査での実効線量は,1時間あたりの線量率で,被検者の正面方向に50cm離れた位置で414μSv/h,200cm離れた位置で28.4μSv/hだった.正面像検査では,線量は約1.5倍になった.エプロンやついたてを使用すると,実効線量はそれぞれ約5分の1,36分の1に低減できると推測された.照射野に手を入れた場合に手の表面が受ける放射線の等価線量は,1秒間あたりの線量率で約54μSv/secと推定された.

    【考察】検査1回の時間を5分間とした場合,側面像での検査1回あたりの実効線量は,50cm離れた位置で34.5μSv,200cm離れた位置で2.37μSvとなり,これをもとに計算すると,VF従事者の被曝線量は職業人の線量限度のみならず一般公衆の線量限度を超えることもほとんどなく,また,自然放射線の地域差や航空機乗務員の被曝と比べても小さいと推測された.しかし,放射線防護器具の使用などにより,被曝を低減する努力が必要だと考えられる.

  • 第1報 食べ方に関する問題
    篠崎 昌子, 川崎 葉子, 猪野 民子, 坂井 和子, 高橋 摩理, 向井 美惠
    2007 年 11 巻 1 号 p. 42-51
    発行日: 2007/04/30
    公開日: 2021/01/16
    ジャーナル フリー

    3歳から6歳の自閉症スペクトラム幼児(以下ASD児)123名と,保育園に在籍する定型発達幼児(以下一般児)131名の保護者に対し,食べ方の問題を「食事環境に関するもの」と,「食物処理に関するもの」に大別しアンケート調査を実施,年齢ごとに比較検討し,以下の結果を得た.

    (1)食事環境に関して

    6項目について調査した.3歳で60%近くのASD児に何らかの問題があり,4,5歳でやや増加し,6歳でも半数以上に問題がみられた.「じっと座っていられない」は年齢に関係なく半数以上にみられた.「いつもと違う場所だと食べない」,「いつもと違う人がいると食べない」,「食器が違うと食べない」3項目は療育により軽快する可能性があると考えられた.しかし「自宅あるいは通園でしか食べない」,「決まった時間に食べられない」ことは短期間では軽快しないと考えられた.

    (2)食物処理に関して

    7項目について調査した.年齢を問わず70から80%のASD児に問題がみられた.「スプーンやフォークがうまく使えない」がもっとも多く,一般児では皆無となる5,6歳以降も存続した.「口にいっぱい詰め込んでしまう」は年齢による減少はなく,「噛まずに飲み込む」,「口にためて飲み込まない」は年齢があがると却って増加しており,短期間では軽快しないと考えられた.「水分ばかり摂る」,「一度飲み込んだものを口に戻す」については,さらに検討が必要と考えられた.

    (3)知的能力との関連について

    知能障害がASD児の問題の発現に関係している可能性が考えられたのは,現段階では「食具がうまく使えない」の1項目であった.

  • 第2報 食材(品)の偏りについて
    篠崎 昌子, 川崎 葉子, 猪野 民子, 坂井 和子, 高橋 摩理, 向井 美惠
    2007 年 11 巻 1 号 p. 52-59
    発行日: 2007/04/30
    公開日: 2021/01/16
    ジャーナル フリー

    3歳から6歳の自閉症スペクトラム幼児(ASD児)123名と保育園に在籍する定型発達幼児(一般児)131名の保護者に対し,食材(品)8種類46品目の摂食状況についてのアンケート調査を実施し,比較検討し以下の結果を得た.

    (1)ASD児では「絶対食べない」食材(品)がある人数およびその食材(品)の数は一般児に比べ有意に多かった.21個以上と多数の品目を絶対食べない児が,いずれの年齢でも10%前後存在した.ASD児が絶対食べない理由として,外観を挙げることが多かったが,一般児では食べない理由は様々であった.ASD児の知能障害の有無と,絶対食べない食材(品)数との間には統計的な有意差はなかった.

    (2)ASD児ではしばしばそれまで食べていた食材(品)を食べなくなることや,食べなかったが食べるようになると言ったエピソードがあり,食べなくなるエピソードは60%,食べるようになるエピソードは53%といずれも半数以上に見られた.一般児ではそれぞれ14%,11%で,両者には有意差があった.知能障害の有無との関係では,食べなくなるエピソードが,有意差をもって遅滞群で多く見られた.

    (3)いわゆる偏食があっても,時期を待つことで自然軽快する可能性が大きいという結果は,療育上重要である.

  • 上村 智子
    2007 年 11 巻 1 号 p. 60-66
    発行日: 2007/04/30
    公開日: 2021/01/16
    ジャーナル フリー

    要介護高齢者へのケアの質を高める施策ニーズを検討するために,長野県内の介護老人保健施設における摂食・嚥下障害者と食の支援状況について郵送調査した(回収率57.5%,46施設).入所と短期入所療養介護を合わせた利用者調査では,栄養管理法や食事介助の状況を調べた.施設サービス調査では,支援法の選択方法,支援内容,介護保険の請求および誤嚥事故の発生について調べた.46施設の1日あたりの総利用者3699名を調査対象とした.対象者は要支援&要介護1が11.7%(432名),要介護2&3が38.8%(1437名),要介護4&5が48.8%(1805名),その他が0.7%(25名)であった。年齢では85歳以上の人が56.0%(2071名)を占めた.経口摂取に直接介助や見守りを受ける人が全利用者の38.4%(1422名)であり,認知障害に起因する要介助者が28.0%(1037名)を占めた.経管栄養を利用する人は6.4%(238名)であった.施設サービスへの回答では,アセスメント・ツールを用いて食の支援法を選択する施設が30(65.3%)あった.食支援のケース検討会を35施設(76.1%),言語聴覚士の嚥下訓練を12施設(26.1%),歯科医師の定期往診を8施設(17.4%)が実施していた.BMIによる栄養スクリーニングを42施設(91.3%)が実施しており,栄養マネジメント加算を38施設(82.6%)が請求していた.誤嚥による過去3ケ月間の受診事例の報告が20施設(43.5%)からあった.ケアの質を高めるには,(1)認知症高齢者の食行動を支える研究を推進し,(2)アセスメント・ツールによる食の支援法決定,食支援のケース検討会,歯科医師の診療や専門職による嚥下訓練を行う施設を増やす施策が必要である.

症例報告
  • 高橋 素彦, 廣田 誠, 東海林 志保美
    2007 年 11 巻 1 号 p. 67-73
    発行日: 2007/04/30
    公開日: 2021/01/16
    ジャーナル フリー

    症例は74歳男性,進行性核上性麻痺の患者である.誤嚥性肺炎後に経口摂取困難と判断され,経管栄養で管理されていたが,経口摂取に対する強い希望があり嚥下機能の評価を実施することになった.嚥下造影検査では舌による有効な送り込み運動は認められず,軟口蓋と舌根が接触し通過障害をきたしていた.このため,リクライニング位による重力を利用した咽頭への送り込みも困難であった.咽頭期には嚥下反射の誘発の遅延以外は異常所見を認めなかった.本症例の送り込み障害には,軟口蓋機能障害が関与していると考え,軟口蓋挙上機能を有する補綴装置を作成した.軟口蓋挙上は,鼻咽腔閉鎖ではなく軟口蓋と舌根間に食塊を通過させる空間を形成することを目的とした.また,無歯顎者であり,装置の吸着による維持が困難であったため,人工歯を再現した.これにより,開口時には装置が脱落するものの,下顎を挙上し閉口することにより下顎顎堤が人工歯を介して装置全体を押し上げ,軟口蓋を挙上させる形状とした.本装置と30度リクライニング位を組み合わせることによって,重力を利用した送り込みが可能となり,スライス状のゼラチンゼリーを摂取可能となった.嚥下造影の所見および自覚症状では装着に伴う嚥下運動への悪影響は認められなかった.軟口蓋挙上装置と比較して挙上範囲が小さいためと考えられた.本装置の適応は,軟口蓋と舌根間が閉鎖することにより送り込み困難であるが,咽頭期の機能が比較的保たれている症例である.進行性核品性麻痺患者では,軟口蓋の協調障害による送り込み障害が特徴的であると従来から報告されており,本装置の適応を有する症例が存在する可能性があると考えた.

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