日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
症例報告
食塊が患側輪状咽頭部を優位に通過した延髄外側梗塞の2症例
―病巣の類似性とその症状について―
鈴木 正浩堀 智恵
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2007 年 11 巻 3 号 p. 195-203

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抄録

嚥下造影にて食塊が患側輪状咽頭部を優位に通過した延髄外側梗塞の症例を2例経験した.いずれも損傷部位が酷似しており,症状にも特徴的な共通点が見られた.そこで,この2症例の病巣と症状との関係について検討した.

症例1は62歳男性.MRIで左延髄外側梗塞(橋境界部),左椎骨動脈狭窄を認めた.嚥下不能を主訴とし,左中枢性顔面神経麻痺,非交代性右温痛覚障害などの非典型的症状も見られた.経口摂取は第12病日より再開した.症例2は58歳男性.回転性眩暈で近医受診し,MRIで橋梗塞と重度の右椎骨動脈狭窄を認めた.第22病日にBalloon angioplastyを施行したが,術後より嚥下不能,右中枢性顔面神経麻痺,嗄声,非交代性左温痛覚障害が出現.術翌日のdiffusion MRIにて右延髄外側(橋境界部)と右小脳半球に梗塞が確認された.経口摂取は約1か月後に再開した.

2症例とも嚥下障害は重度に発症したが,予後は概ね良好だった.病巣は延髄上部に位置し,比較的限局していた.温痛覚障害はともに非交代性であり,また延髄病変ながら中枢性の顔面神経麻痺も共通して認めた.温痛覚障害については,典型例よりも背内側に損傷が及び三叉神経視床路が交叉後に損傷したため,非交代性に出現したと考えられた.また中枢性顔面神経麻痺については,延髄レベルまで下降した同神経の核上線維の損傷(Cavazosら,1995)が示唆された.食塊が患側を通過した詳細な機序は不明であるが,2症例はともに損傷部位が酷似していることから,延髄上部の損傷と食塊の患側通過との間に何らかの因果関係がある可能性が考えられる.食塊の優位通過側と病巣部位との関係について,今後多角的な検討を加えていく必要があると思われる.

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© 2007 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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