日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
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症例報告
嚥下訓練法としてリズム刺激が有効であったパーキンソン病患者一例
杉下 周平野﨑 園子馬木 良文椎本 久美子川崎 聡大
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2008 年 12 巻 2 号 p. 141-147

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抄録

パーキンソン病の歩行障害に,音リズム訓練の有効性が報告されている。われわれは,音リズム訓練が摂食・嚥下訓練に有効であったパーキソン病患者を経験したので報告する.

パーキンソン病患者66歳男性である.2006年に誤嚥性肺炎と診断され,嚥下機能の精査とリハビリを目的に当院転院となる.

訓練は,舌訓練とメンデルゾーン,頚部ストレッチを主体とした訓練(間接的訓練)と音リズムを用いた訓練(音リズム訓練)を実施した.訓練は各1ヵ月とし,各訓練間には,2週間の除去期を設定した.評価はVFから定性的に誤嚥や咽頭残渣の有無を,定量的にはOral transit duration (OTD) と,Pharyngeal transit duration (PTD) を測定した.検査食はゼリーとジュースを用いた.

定性評価では,音リズム訓練後に咽頭残渣や誤嚥の改善を認めた.定量評価の結果を,ベースライン期,間接的訓練後,除去期,音リズム訓練後の順に記す.ゼリーではOTD (sec) は3.97±0.54,4.60±1.94,2.47±0.37,0.94±0.08 (p<0.05 vs ベースライン期),PTDは,1.38±0.64,1.43±0.86,1.49±0.74,0.18±0.02 であった.ジュースでは,OTD(sec)が2.76±0.39,184±0.45,1.47±0.62,0.94±0.02 (p<0.05 vs ベースライン期),PTDは0.85±0.01,0.89±0.01,0.96±0.07,0.49±0.19であった.ゼリー,ジュースともに音リズム訓練でOTDの短縮を認めた.

パーキンソン病のリズム形成障害は古くより指摘され,歩行訓練では,外的な刺激が歩行を安定させるとしている.本例でも,外的な音リズム刺激が,特に口腔相の随意運動を向上させたことで,安定した嚥下動作が可能になったと考えられた.

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© 2008 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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