【緒言】眼咽頭遠位型ミオパチーは,頭頸部,咽頭の筋萎縮による筋力低下を特徴とし,重度の口腔,咽頭期障害が出現する.今回われわれは,頸部回旋により重度食道入口部開大不全が改善し,経口摂取可能に至ったミオパチーの1 例を経験したので報告する.
【症例】60 歳,男性.2000 年に眼咽頭遠位型ミオパチーを発症した.2006 年より嚥下困難が進行してきた.2008 年10 月上旬, 誤嚥性肺炎と診断され入院加療となった.入院7 日目,全身状態が落ち着いたため,摂食・嚥下機能検査依頼となった.入院まで常食を摂取していた.
【経過】入院7 日目に嚥下内視鏡検査により咽頭筋群の萎縮による重度の咽頭収縮不全,食道入口部開大不全,鼻咽腔閉鎖不全,喉頭閉鎖不全を認めた.そのため,ゼリー小さじ1 杯を摂取できず,経管栄養摂取となった.摂食・嚥下訓練は,入院9 日目から食道入口部開大を目的としてバルーン拡張法が行われた.訓練開始から28 日後に,嚥下内視鏡検査による再評価を行った.食道入口部開大の顕著な改善は認めなかったが,バルーン挿入側と反対側へ頸部回旋したところ,バルーン挿入側の食道入口部開大を認めた.頸部回旋の状態で被験食品を嚥下したところ,嚥下の喉頭挙上のタイミングに合わせて,食物が咽頭から梨状窩を滑るように食道へと流入した.その後,食事前のバルーン拡張法と摂食時の頸部回旋を行うことで,全食経口摂取可能となった.
【考察】頸部回旋法は,片麻痺などによる食物の片側咽頭残留を軽減するために用いられる姿勢代償法の一種である.一般的な頸部回旋法の作用機序は,頸部を麻痺側に回旋させることで,麻痺側への食物の進入を物理的に阻止し,健常側の咽頭筋群を使って嚥下させることとされている.しかし,本症例では,バルーン拡張法による輪状咽頭筋の弛緩とともに,頸部回旋をすることで片側の輪状咽頭筋を前方に牽引し,物理的に食道入口部を開大させたことによる.本結果から,頸部回旋法を,咽頭筋群の筋力低下がある疾患への新たな姿勢代償法として用いることができることが示唆された.