日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
15 巻, 1 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
原著
  • ―物性評価と非経口型感覚評価を用いて―
    岩崎 裕子, 高橋 智子, 西成 勝好, 大越 ひろ
    2011 年 15 巻 1 号 p. 2-13
    発行日: 2011/04/30
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    現在多くのとろみ調整食品が開発,販売されているが,調製時の目安となるとろみ表現がメーカーごとに異なっているため,使用者にとってわかりにくい.そこで,とろみの状態の目安として的確な指標(モデル食品)を検討するため,とろみ調整食品を調製する際には必ず撹拌動作を行うという点に着目し,撹拌時の感覚評価を行い,力学的特性との関連性を検討した.

    本研究で用いた濃度範囲のとろみ調整食品添加試料に対応するとろみ表現として,はちみつ状およびヨーグルト状が多く用いられていた.そこで,とろみ調整食品添加試料と,はちみつおよびプレーンヨーグルトとの比較を,感覚評価により行った.評価方法は,① 容器を傾けたときの流れやすさ,② 撹拌したときの抵抗,③ 液切れの状態,の3 項目である.力学的特性として,テクスチャー測定による硬さ,付着性,凝集性,コーンプレート型回転粘度計による粘性率の測定を行った.

    感覚評価では,はちみつは,とろみ調整食品添加試料とはまったく異なる評価となり,とろみの状態を表すモデル食品としては適していないことが示された.その要因として,はちみつはニュートン流体であるが,とろみ調整食品添加試料およびプレーンヨーグルトは非ニュートン流体であることが影響していると示唆された.ずり速度の異なる2 点間以上の粘性率を測定することで,ニュートン流体を区別することが可能となった.

    テクスチャー特性の硬さ―付着性,硬さ―凝集性の二次元グラフでは,とろみ調整食品添加試料およびはちみつ,プレーンヨーグルトのいずれも,ほぼ同範囲に分布しており,はちみつのようなニュートン流体様食品を区別することは困難であった.

    とろみ調整食品を液状食品に添加するときには撹拌動作が伴うことから,テクスチャー特性のみではなく,回転粘度計による測定を加えて,指標となるモデル食品を選定することの重要性が示唆された.

  • 小城 明子, 竹内 由里, 河野 みち代, 高杉(森) 一恵, 浅野 恭代, 大石 明子, 佐藤 礼子, 下田 妙子, 柳沢 幸江
    2011 年 15 巻 1 号 p. 14-24
    発行日: 2011/04/30
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    病院や要介護高齢者施設,障害児者施設などの給食施設において,摂食機能の低下を考慮して形態を調整した食種が設定されている.これらの物性特徴の標準化は喫食者の栄養管理および安全管理にきわめて重要であることから,早期の標準化が望まれているものの,未だそこには至っていない現状がある.そこで,既存の食種とその適応喫食者を整理し,それらを医学的エビデンスに基づき標準化する方法に着手した.本報では,既存の食種を整理することを目的としたアンケート調査の結果をまとめた.

    全国の高齢者施設,病院,障害児者施設の計1,262 施設の給食担当管理栄養士・栄養士を対象に,摂食機能の低下を考慮した食種について,それぞれの呼称とその調理方法,物性特徴(主食は粘度,副食は硬さと大きさ,粘度),適応喫食者の特性の回答を求めた.

    323 施設の主食693,副食895 食種を,物性特徴および調理方法から,主食7,副食15 に区分した.これらの適応喫食者の特性を整理したところ,「咀嚼・食塊形成」の機能低下には,大きさや硬さが調整された食種が特徴づけられた.「送り込み+嚥下反射・気道防御」の機能低下には,液状のものにとろみをしっかりとつけてまとめた“食べる”イメージの食種と,粒の有無にかかわらずゲル化剤で固めた食種が特徴づけられた.「咀嚼・食塊形成+送り込み+嚥下反射・気道防御」の機能低下には,飲める程度にとろみのついた,液状の食種や粒のある食種も抽出された.

    適応喫食者の特性については,咀嚼困難,嚥下困難,むせといった各関連器官の機能低下の結果として現れる症状の回答が多く,回答者の摂食・嚥下機能を細分化する知識の不足,喫食者の摂食機能の把握不足が推察された.そのため,機能低下の細部を把握できなかったが,各区分の適応喫食者の特性については,医学的エビデンスに基づいた適否の検討が必要と考えられるものもあった.

  • 鈴木 哲, 小田 佳奈枝, 高木 由季, 大槻 桂右, 渡邉 進
    2011 年 15 巻 1 号 p. 25-30
    発行日: 2011/04/30
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    【目的】嚥下時に前腕を置く机の高さが舌骨上筋群の筋活動に与える影響を検討し,嚥下時の姿勢調節に関する基礎的な情報を得ることを目的とした.

    【方法】健常者10 名を対象に,机無し条件(両上肢下垂位)と,前腕を机上に置いた机有り条件A(差尺が座高の3 分の1 の高さ),机有り条件B(座高の3 分の1 に15 cm 加えた高さ)の3 条件で,全粥(5 g)を嚥下させ,その際の舌骨上筋群の表面筋電図,主観的飲みにくさ,肩甲帯挙上角度を測定した.舌骨上筋群の表面筋電図から,嚥下時の筋活動時間,筋活動積分値,嚥下開始から最大筋活動までの時間を算出した.各机有り条件の各評価・測定項目は,机無し条件を基準に正規化し,机無し条件からの変化率(% 筋活動時間,% 筋活動積分値,% 最大筋活動までの時間,% 主観的飲みにくさ)を算出した.机無し条件と2 種類の高さの机有り条件間における各評価・測定項目の比較,2 種類の高さの机有り条件間における肩甲帯挙上角度の比較,および各評価・測定項目の机無し条件からの変化率の比較には,Wilcoxon の符号付き順位和検定を使用し検討した.

    【結果】机無し条件と比べ,机有り条件A では,舌骨上筋群の筋活動時間,最大筋活動までの時間は有意に短く,筋活動積分値,主観的飲みにくさは有意に低かったが,机有り条件B では有意な差はみられなかった.机有り条件A における肩甲帯挙上角度は,机有り条件B と比べ,有意に高かった.机有り条件Aにおける%筋活動時間,%最大筋活動までの時間,%筋活動積分値,%主観的飲みにくさは,机有り条件B に比べ,有意に低かった.

    【結論】本研究結果から,嚥下時に前腕を置く机の高さは,舌骨上筋群の筋活動に影響を与えることが示唆された.頸部や体幹の姿勢調節に加えて,前腕を置く机の高さを適切に調節することは,嚥下時の姿勢調節のひとつとして有用となる可能性があると考えられた.

  • 竹中 恵太, 松元 秀次, 添田 明那, 下堂薗 恵
    2011 年 15 巻 1 号 p. 31-39
    発行日: 2011/04/30
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    【緒言と目的】当院は65 歳以上の高齢者が35.2% を占める高齢化地域にあり,その中核病院として救急患者は当院をすべて経由するという特徴がある.その特性を活かし,当院に入院した誤嚥性肺炎患者複数回入院群の特徴を検討し,誤嚥性肺炎の誘因を明らかにすることが本研究の目的である.

    【対象と方法】平成19 年4 月から平成21 年6 月までに当院に入院した誤嚥性肺炎患者68 名.その68 名を1 回入院群53 例と複数回入院群15 例の2 群に分け,年齢や性別,在院日数,脳血管障害の既往,認知症,嚥下機能障害,反復唾液嚥下テスト(RSST),改訂水飲みテスト(MWST),食物テスト(FT),退院時食事形態,歩行能力,入院前生活場所,退院先,入院前・退院時食事自立度,高次脳機能障害の16 項目について比較した.

    【結果】脳血管障害の既往,MWST,歩行能力で両群間に有意差を認めた.そのほか,複数回入院群は,87% が施設からの入院であり,注意障害やペーシング障害などの高次脳機能障害が64% を占め(p=0.03),退院時の食事自立度は約半数が自立または半介助レベルという特徴がみられた.

    【考察と結論】誤嚥性肺炎の複数回入院群は,施設入所者に多く,高次脳機能障害の合併が多くみられ,食事自立度が半数は自立・半介助レベルという特徴があった.これは,藤本(2004)や東嶋ら(1995)が述べる,施設入所者と誤嚥性肺炎の関係性や自己管理能力についての報告と一致した.次に,当院の1 回入院群は複数回入院群に比べ重症化しやすかった.これは,自宅生活者の発症への気づきの遅れが原因と推察された.今後はデータの集積とともに,退院先や家族へ患者の摂食・嚥下障害に関して,さらに具体的な情報提供とともに,その知識と対処の普及,また認知症や高次脳機能障害,摂食・嚥下障害に対する精査・訓練法の充実化を図りたい.

短報
  • ―74 歳以下群と75 歳以上群の比較―
    宇山 理紗, 高橋 浩二, 綾野 理加, 横山 薫, 武井 良子, 山下 夕香里
    2011 年 15 巻 1 号 p. 40-48
    発行日: 2011/04/30
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    当科は2004 年6 月1 日に設立され,摂食・嚥下障害患者の外来診療に加え,入院下での集中訓練を開設当初から行っている.今回は,2004 年6 月から2009 年3 月までの入院患者のうち65 歳以上の高齢者を対象に,74 歳以下群と75 歳以上群について集中加療の効果を比較検討したので報告する.

    対象症例は,74 歳以下群7 名(平均69.4 歳)と75 歳以上群7 名(平均81.3 歳)の14 名である.調査項目は,年齢,性,嚥下障害の原因疾患,在院日数,罹病期間,嚥下造影検査数,摂食・嚥下リハビリテーションの内容,栄養経路・食形態,摂食エネルギー量(kcal),摂食・嚥下状況のレベルについて検討した.

    摂食・嚥下障害の原因疾患は,74 歳以下群では脳血管障害3 名,頭頸部腫瘍術後4 名であり,75 歳以上群では脳血管障害2 名,頭頸部腫瘍術後1 名,その他4 名(認知症2 名,帯状疱疹後神経障害1 名,進行性核上性麻痺1 名)であった.在院日数は,74 歳以下群では平均14.0 日,75 歳以上群は平均13.4 日であった.嚥下障害を発症してから入院までの期間は,最短日数62日で,最長日数は1,329 日(約3年8カ月)であった.入院中に施行した嚥下造影検査回数は平均2.4 回であった.退院時に摂食・嚥下状況のレベルが改善した患者は14 名中10 名(74 歳以下群6 名,75 歳以上群4 名)であった.入院時に比べ,退院時での一日摂取エネルギー量が増加した患者は14 名中9 名(74 歳以下群:3 名,75 歳以上群6 名)であった.以上,入院下での集中訓練の効果が確認された

  • 杉下 周平, 松本 綾, 野﨑 園子, 馬木 良文, 川道 久美子, 今井 教仁, 松井 利浩
    2011 年 15 巻 1 号 p. 49-54
    発行日: 2011/04/30
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    【目的】摂食・嚥下障害を有する在宅療養患者を支える介護者の栄養状態と食事環境を明らかとすることを目的とした.

    【対象】対象は,摂食・嚥下外来に通院中の慢性疾患患者の主たる介護者10 名(男性2 名,女性8 名),平均年齢は71.8±5.6 歳である.

    【方法】介護者に対して身体測定と血液生化学検査を実施した.また,介護背景に対するアンケート調査を実施した.食事調査として,食品別摂取量と栄養素別摂取量を算出した.

    【結果】血液生化学検査では,介護者10 名のうち,総タンパクが3 名で,アルブミンが5 名で基準値を下回っていた.プレアルブミン,レチノール結合タンパク,トランスフェリンは,概ね基準値内ではあるが下限に近い値を示した.総リンパ球数では7 名が基準値を下回っていた.微量元素では,鉄,亜鉛で半数が基準値を下回った.

    アンケート調査では,自身の食事に無関心で,惣菜や漬物を利用している介護者が多かった.

    食品別摂取量では,緑黄食野菜,魚介類,卵類,いも類の摂取量が少なく,豆類,肉類,菓子類の摂取量が多い傾向にあった.栄養素別摂取量では,脂質を除くすべての栄養素が不足傾向で,ビタミン類は全介護者が基準値の半分を下回っていた.

    【考察】血液生化学検査と食事摂取状況の結果から,介護者の栄養状態は,現時点で低栄養とはいえないまでも,現在の食生活が継続されることで栄養状態が低下する低栄養予備軍であると思われた.

    この問題を解決するためには,まずは,介護者自身が食事に関心をもてるような環境整備が必要であると考えられた.

    【結語】在宅療養支援においては,患者だけでなく介護者も含めた,家族全体を支援することが重要である.

症例報告
  • ―頸部回旋法の新たな適用についての一考察―
    松尾 浩一郎, 河瀬 総一朗, 脇本 仁奈, 望月 千穂, 武井 洋一, 大原 慎司, 小笠原 正
    2011 年 15 巻 1 号 p. 55-63
    発行日: 2011/04/30
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    【緒言】眼咽頭遠位型ミオパチーは,頭頸部,咽頭の筋萎縮による筋力低下を特徴とし,重度の口腔,咽頭期障害が出現する.今回われわれは,頸部回旋により重度食道入口部開大不全が改善し,経口摂取可能に至ったミオパチーの1 例を経験したので報告する.

    【症例】60 歳,男性.2000 年に眼咽頭遠位型ミオパチーを発症した.2006 年より嚥下困難が進行してきた.2008 年10 月上旬, 誤嚥性肺炎と診断され入院加療となった.入院7 日目,全身状態が落ち着いたため,摂食・嚥下機能検査依頼となった.入院まで常食を摂取していた.

    【経過】入院7 日目に嚥下内視鏡検査により咽頭筋群の萎縮による重度の咽頭収縮不全,食道入口部開大不全,鼻咽腔閉鎖不全,喉頭閉鎖不全を認めた.そのため,ゼリー小さじ1 杯を摂取できず,経管栄養摂取となった.摂食・嚥下訓練は,入院9 日目から食道入口部開大を目的としてバルーン拡張法が行われた.訓練開始から28 日後に,嚥下内視鏡検査による再評価を行った.食道入口部開大の顕著な改善は認めなかったが,バルーン挿入側と反対側へ頸部回旋したところ,バルーン挿入側の食道入口部開大を認めた.頸部回旋の状態で被験食品を嚥下したところ,嚥下の喉頭挙上のタイミングに合わせて,食物が咽頭から梨状窩を滑るように食道へと流入した.その後,食事前のバルーン拡張法と摂食時の頸部回旋を行うことで,全食経口摂取可能となった.

    【考察】頸部回旋法は,片麻痺などによる食物の片側咽頭残留を軽減するために用いられる姿勢代償法の一種である.一般的な頸部回旋法の作用機序は,頸部を麻痺側に回旋させることで,麻痺側への食物の進入を物理的に阻止し,健常側の咽頭筋群を使って嚥下させることとされている.しかし,本症例では,バルーン拡張法による輪状咽頭筋の弛緩とともに,頸部回旋をすることで片側の輪状咽頭筋を前方に牽引し,物理的に食道入口部を開大させたことによる.本結果から,頸部回旋法を,咽頭筋群の筋力低下がある疾患への新たな姿勢代償法として用いることができることが示唆された.

  • 西尾 正輝, 渡邉 裕之, 近 幸吉
    2011 年 15 巻 1 号 p. 64-69
    発行日: 2011/04/30
    公開日: 2020/06/25
    ジャーナル フリー

    症例は86 歳,女性.医学的診断名は多発性脳梗塞.初回評価では,反復唾液嚥下テスト0 回,改訂水飲みテスト1 点,フードテスト1 点といずれも最重度.嚥下造影検査(VF)所見では,食道入口部の著しい開大障害,舌骨・喉頭の挙上障害を認め,ゼリーは全量両側梨状窩に残留した.quality of life(QOL)の評価には,満足度の評価尺度として5 段階尺度を用い,最も低い段階5 の「不満足」であった.訓練プランとして,当初は間接訓練を実施したが,変化はみられず胃瘻を造設した.その後,三枝らにならいチューブ飲み込み法を試みたが,チューブの自動的嚥下がまったく困難であったため,同法の改変版を考案した.本手法は,事前に経内視鏡的に外鼻孔から食道を経て胃瘻チューブまで糸を通し,外鼻孔から出ている糸の先端に尿道用カテーテルを接続し,胃瘻チューブから糸を引き寄せ,尿道用カテーテルを自動介助運動にて嚥下させるものである.同訓練を8 週間実施した結果,当初は自動介助的な嚥下運動が主であったが,やがて自動的な嚥下運動が可能となった.VF 所見では,食道入口部の開大障害の顕著な改善が認められた.転院にともない訓練は終了となり,必要栄養量を完全に経口摂取するには至らなかったが,明らかな機能的改善が認められ,QOL の指標である満足度の評価結果は段階1 の「満足」にまで飛躍的に改善した.以上より,咽頭期嚥下障害でみられる食道入口部の開大障害に対し,チューブを自動運動にて嚥下することが困難である場合,自動介助運動にて嚥下させる手法の有用性が示唆された.咽頭期嚥下障害のリハビリテーションは四肢や体幹のリハビリテーションとは異なり,障害部位に直接働きかけることが難しいという解剖学的理由のため,とりわけ他動運動もしくは自動介助運動を用いて働きかける試みはきわめて乏しかった.この点で本法は,咽頭期嚥下障害のリハビリテーションにおいて,新たな道を切り開くものと着目される.

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