日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
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Print ISSN : 1343-8441
症例報告
チューブ飲み込み法の改変利用により嚥下機能に改善がみられた重度の咽頭期嚥下障害の1 例
西尾 正輝渡邉 裕之近 幸吉
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2011 年 15 巻 1 号 p. 64-69

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抄録

症例は86 歳,女性.医学的診断名は多発性脳梗塞.初回評価では,反復唾液嚥下テスト0 回,改訂水飲みテスト1 点,フードテスト1 点といずれも最重度.嚥下造影検査(VF)所見では,食道入口部の著しい開大障害,舌骨・喉頭の挙上障害を認め,ゼリーは全量両側梨状窩に残留した.quality of life(QOL)の評価には,満足度の評価尺度として5 段階尺度を用い,最も低い段階5 の「不満足」であった.訓練プランとして,当初は間接訓練を実施したが,変化はみられず胃瘻を造設した.その後,三枝らにならいチューブ飲み込み法を試みたが,チューブの自動的嚥下がまったく困難であったため,同法の改変版を考案した.本手法は,事前に経内視鏡的に外鼻孔から食道を経て胃瘻チューブまで糸を通し,外鼻孔から出ている糸の先端に尿道用カテーテルを接続し,胃瘻チューブから糸を引き寄せ,尿道用カテーテルを自動介助運動にて嚥下させるものである.同訓練を8 週間実施した結果,当初は自動介助的な嚥下運動が主であったが,やがて自動的な嚥下運動が可能となった.VF 所見では,食道入口部の開大障害の顕著な改善が認められた.転院にともない訓練は終了となり,必要栄養量を完全に経口摂取するには至らなかったが,明らかな機能的改善が認められ,QOL の指標である満足度の評価結果は段階1 の「満足」にまで飛躍的に改善した.以上より,咽頭期嚥下障害でみられる食道入口部の開大障害に対し,チューブを自動運動にて嚥下することが困難である場合,自動介助運動にて嚥下させる手法の有用性が示唆された.咽頭期嚥下障害のリハビリテーションは四肢や体幹のリハビリテーションとは異なり,障害部位に直接働きかけることが難しいという解剖学的理由のため,とりわけ他動運動もしくは自動介助運動を用いて働きかける試みはきわめて乏しかった.この点で本法は,咽頭期嚥下障害のリハビリテーションにおいて,新たな道を切り開くものと着目される.

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© 2011 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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