日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
原著
高齢者施設における嚥下障害食の食形態決定についての管理栄養士・栄養士の関与とその効果
川上 純子饗場 直美石田 淳子
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2011 年 15 巻 3 号 p. 292-303

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抄録

【目的】本研究の目的は,国内の介護老人施設において,(1) 管理栄養士・栄養士(以下,管理栄養士等)が嚥下障害者に提供される食形態にどのような影響を与えているか,(2) 食形態を決定する場合の評価方法について,管理栄養士等の関与により,どのような差異があるのか等を調査・分析し検討した.

【対象】独立行政法人福祉医療機構が運営するWAMNET(Welfare And Medical Service Network System)に2007 年11 月時点で登録されていた北海道,東京,神奈川,愛知,京都,熊本県内の介護老人施設の全数,合計2,767 施設を調査対象とした.

【調査方法】2007 年11 月以降,上記施設の管理栄養士等宛に調査票を郵送し,2008 年2 月までに回答を郵送で得た.

【結果】調査票を送付した2,767 施設のうち,回答が得られたのは1,639 施設(59.2%)からであった.回答のあった1,639 施設のうち,回答者の資格(管理栄養士,栄養士の別)の記入のないもの等を除外し,本研究の対象となった施設数は1,251 となった.

にんじんの煮物を例とした場合,嚥下障害(嚥下障害のみの場合,および,咀嚼障害もあわせもつ場合)のある人にどのような食形態で提供するかについての回答(複数回答)では,「ミキサー」形態での提供が回答比率で最も高く(74.0~75.1%),次に「とろみ」が回答者の多数(54.9~53.9%)によって選択された.

嚥下障害がある入居者に提供する食形態の決定に管理栄養士等が関与している場合(回答全体の78.7%)と関与していない場合(同じく21.3%)で施設をグループ分けし,管理栄養士等の関与,非関与の別による食形態の提供種類数の差異を分析した.その結果,比較するグループのサイズが大きくないための限界はあるが,比較したグループのN数の最も大きな対比群では,管理栄養士等が関与する施設群の食形態の提供数が有意に高くなっていることが示された.

食形態を決定するための評価方法に関しては,介護老人福祉施設区分の場合,医師,看護師と介護職員のみが決定している施設の場合に対して,これらの職種に加えて管理栄養士等も加わっている施設の場合では,臨床評価,ミールラウンズ,および本人もしくは家族の希望等,複数選択の回答率が高く,逆に,これらの単独回答の比率が有意に低かった.

【考察・結論】日本の介護老人施設における嚥下障害者の食形態の決定には,各施設の事情により管理栄養士等が関与している場合と関与していない場合があるが,施設区分と関与する職種の関連においては,関与している場合,全体として多面的な要素はあるものの,食形態の提供種類数,食形態を決定するための評価方法等の面で,対象者の状況に応じてより多様な対応がされていることが,部分的ではあるが示唆された

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© 2011 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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