日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
原著
「とろみ」指標食材の物性解析:Line Spread Test 法による「とろみ」の分類の適応と限界
中村 愛美吉田 智岩品 有香房 晴美大宿 茂鈴木 靖志
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2012 年 16 巻 2 号 p. 155-164

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抄録

とろみ調整食品を用いて調整した「とろみ」の状態は,一般的にさまざまな食材を指標にして表わされているが,この方法は容易にイメージがわきやすい反面,そのイメージに個人差があり,客観性を欠くことが指摘されている.しかし,粘度計などの高価な物性測定装置は,設置場所の関係もあって,病院や高齢者福祉施設の厨房へ導入することが困難である.この問題を解消するための簡易とろみ測定方法として,Line Spread Test(LST)法が考案されている.本研究では,とろみの指標として頻繁に用いられている食材9 種類と,市販とろみ調整食品9 種類でとろみ付けをした溶液(とろみ液)のLST を含む各種物性値を測定し,「とろみ」の指標食材としての物性面における適合性を評価した.LST 測定が可能であった7 種類の指標食材と,とろみ液について,クラスター解析および主成分分析を行って指標食材を分類すると,大きく3 つに分類された(大分類).とろみ液は2 つの大分類に含まれており,この2 つの大分類をさらに6 つの小分類に分けると,指標食材の分類を表わす物性範囲をさだめることが可能であった.次に,LST を目的変数,その他の物性を説明変数として小分類中の指標食材5 種類と1 種類のとろみ調整食品で調整したとろみ液のデータを用いて,重回帰分析を行った結果,粘度と付着エネルギーを説明変数とするモデルが得られた.このモデル式に,各種とろみ調整食品で調整したとろみ液の物性データを代入すると,良好な適合度が得られた.以上の結果より,9 種類の食材のうち5 種類が,LST などの物性特性に基づくとろみ液の指標として適していることが示された.本研究結果をもとに,「とろみ」のLST基準を設けることにより,実用的な嚥下調整食の標準化に寄与することが可能と考えられる.また,LSTでの物性測定に適さない食材も存在するという限界も理解し,LST を「とろみ」調整に適用することが重要である.

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© 2012 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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