日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
16 巻, 2 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
原著
  • 金子 雄太, 山村 千絵
    2012 年16 巻2 号 p. 131-139
    発行日: 2012/08/31
    公開日: 2020/06/07
    ジャーナル フリー

    呼吸機能や咳嗽力は,姿勢の影響を受けやすいことが報告されている.一般的に,摂食・嚥下リハビリテーションにおいて経口摂取を行わせる際には,頭頸部と体幹の複合的な姿勢調整を行い,嚥下がしやすく誤嚥が起こりにくいとされている姿勢をとらせる.しかし,適切な姿勢に調整された場合でも,誤嚥やむせが起こることがある.その時に素早く効果的に誤嚥物を排出できる姿勢,あるいは,食事中に楽に安定して呼吸が行える姿勢等を見いだしておくことは重要であると考える.

    本研究では,摂食・嚥下リハビリテーション時を想定した頭頸部と体幹の複合的な姿勢変化により,呼吸機能や咳嗽力がどの程度変化するかを,呼吸機能に問題のない健常成人を用いて調査することで,上記の問題を解決するための基礎データを得ることとした.

    測定姿勢は,車椅子に座った状態で,① リクライニング90 度頭頸部0 度(R90HN0),② リクライニング90 度頭頸部屈曲30 度(R90HN30),③ リクライニング30 度頭頸部0 度(R30HN0),④ リクライニング30 度頭頸部屈曲30 度(R30HN30)の4 通りを,ランダムにとらせた.呼吸機能や咳嗽力に関する測定項目は,1 回換気量(TV),予備吸気量(IRV),予備呼気量(ERV),最大吸気量(IC),肺活量(VC),咳嗽時最大呼気流量(PCF),最大呼吸流量(PEF)とした.

    その結果,安静時呼吸に関わる測定項目であるTV は,姿勢変化の影響を受けず,努力性呼吸に関わる測定項目であるIRV, ERV, IC, VC, PCF, PEF は,姿勢変化による影響を受けた.呼吸機能検査では,呼気に関する測定値(ERV)は,体幹の姿勢に関してR90 のほうがR30 より有意に大きく,頭頸部の姿勢に関してHN0 のほうがHN30 より有意に大きかった.咳嗽力検査では,PCF は体幹の姿勢に関して,R90 のほうがR30 より有意に大きかった.

    測定値と問診の結果を総合すると,体幹と頭頸部の姿勢の組み合わせでは,R90HN0 が最も呼吸を行いやすく,誤嚥物を排出する際など,強い呼出を行うのに有効な姿勢であることが示唆された.

  • 山縣 誉志江, 酒井 美由季, 栢下 淳
    2012 年16 巻2 号 p. 140-147
    発行日: 2012/08/31
    公開日: 2020/06/07
    ジャーナル フリー

    【目的】個々の施設や地域において嚥下食の物性測定を試みた報告はみられるが,広範囲の多施設において嚥下食の物性測定を試みた報告は少ない.本研究では,複数の施設において提供されている嚥下食を物性測定し,嚥下食としてふさわしい物性のものが提供されているか否かを,特別用途食品えん下困難者用食品許可基準にて評価した.

    【方法】176 施設の嚥下食計903 種類を試料とし,えん下困難者用食品許可基準の試験方法に準じて,各試料2 つの温度帯にて物性測定を行い,許可基準での評価を行った.

    【結果および考察】肉類,魚介類,芋類,検査食では,過半数の試料が許可基準外と評価された.肉類および魚介類では,物性値が温度の影響を受けやすかった.芋類は付着性,検査食は硬さが要因であった.肉類および芋類では,調理の際に加水量を増加させることにより,許可基準内の物性にすることができる可能性が示唆された.

  • ─健常高齢者ならびに嚥下障害者における検討─
    池野 雅裕, 熊倉 勇美
    2012 年16 巻2 号 p. 148-154
    発行日: 2012/08/31
    公開日: 2020/06/07
    ジャーナル フリー

    嚥下障害のスクリーニングテストには,反復唾液嚥下テスト(以下,RSST)などの方法がある.RSST は,感度が高くリスクが少ないので,広く臨床に普及している.嚥下反射惹起時には,舌骨下筋群ばかりでなく,舌骨上筋群にも運動がみられる.しかし,頸部皮下脂肪が厚い,甲状軟骨の位置が高いなどのために喉頭挙上の確認ができず,検査の実施が困難な場合がある.本研究でわれわれは,甲状軟骨触診と下顎下面触診を併用することで,嚥下反射の検出率を向上させる可能性について検討した.仮説の検証には,表面筋電図と嚥下音の同時測定のほか,嚥下造影(以下,VF)を使用して分析・検討を加えた.

    方法は,健常高齢者23 名,嚥下障害者21 名に表面筋電図,甲状軟骨触診,下顎下面触診および嚥下音の同時計測を行った.触診については,嚥下反射があったと思われる際に,検査者が筋電図上にマークを付した.筋活動量は,絶対値処理後,積分法により算出した.また,表面筋電図の導出筋は,舌骨上筋群,舌骨下筋群とした.

    その結果,それぞれの触診の際の嚥下反射惹起のマークと嚥下音を比較すると,健常高齢者においては,舌骨上筋群触診と甲状軟骨触診で97.5%,87.0% であり,嚥下障害者では91.9%,87.0% であった.

    本研究において,30 秒間における筋疲労に有意差はなかった.以上のことから,甲状軟骨触診のみで嚥下反射の確認が困難な対象者に対し,下顎下面触診を併用することで,RSST の精度が向上すると考えられた.

  • 中村 愛美, 吉田 智, 岩品 有香, 房 晴美, 大宿 茂, 鈴木 靖志
    2012 年16 巻2 号 p. 155-164
    発行日: 2012/08/31
    公開日: 2020/06/07
    ジャーナル フリー

    とろみ調整食品を用いて調整した「とろみ」の状態は,一般的にさまざまな食材を指標にして表わされているが,この方法は容易にイメージがわきやすい反面,そのイメージに個人差があり,客観性を欠くことが指摘されている.しかし,粘度計などの高価な物性測定装置は,設置場所の関係もあって,病院や高齢者福祉施設の厨房へ導入することが困難である.この問題を解消するための簡易とろみ測定方法として,Line Spread Test(LST)法が考案されている.本研究では,とろみの指標として頻繁に用いられている食材9 種類と,市販とろみ調整食品9 種類でとろみ付けをした溶液(とろみ液)のLST を含む各種物性値を測定し,「とろみ」の指標食材としての物性面における適合性を評価した.LST 測定が可能であった7 種類の指標食材と,とろみ液について,クラスター解析および主成分分析を行って指標食材を分類すると,大きく3 つに分類された(大分類).とろみ液は2 つの大分類に含まれており,この2 つの大分類をさらに6 つの小分類に分けると,指標食材の分類を表わす物性範囲をさだめることが可能であった.次に,LST を目的変数,その他の物性を説明変数として小分類中の指標食材5 種類と1 種類のとろみ調整食品で調整したとろみ液のデータを用いて,重回帰分析を行った結果,粘度と付着エネルギーを説明変数とするモデルが得られた.このモデル式に,各種とろみ調整食品で調整したとろみ液の物性データを代入すると,良好な適合度が得られた.以上の結果より,9 種類の食材のうち5 種類が,LST などの物性特性に基づくとろみ液の指標として適していることが示された.本研究結果をもとに,「とろみ」のLST基準を設けることにより,実用的な嚥下調整食の標準化に寄与することが可能と考えられる.また,LSTでの物性測定に適さない食材も存在するという限界も理解し,LST を「とろみ」調整に適用することが重要である.

  • ―新たに開発した舌圧測定器を用いて―
    武内 和弘, 小澤 由嗣, 長谷川 純, 津田 哲也, 狩野 智一, 上田 麻美, 豊田 耕一郎
    2012 年16 巻2 号 p. 165-174
    発行日: 2012/08/31
    公開日: 2020/06/07
    ジャーナル フリー

    本邦初の医療機器承認を取得した「舌圧測定器(TPM-01,JMS 社,広島)」を用いて,舌機能の定量的評価法としての舌圧測定の有用性について検証した.

    対象は,脳血管障害または神経筋疾患に由来する嚥下障害または構音障害を有する患者(障害群)115名で,それらの障害を有しない患者29 名を対照群とした.

    調査は,舌圧測定と同時に,基礎疾患名,嚥下障害と構音障害の有無,反復唾液嚥下テスト(RSST),会話明瞭度などについて実施した.舌圧は,前舌による最大押し付け力(最大舌圧)を3 回測定し,その平均値を舌圧値とした.また,舌圧測定の有用性の検証を目的として,舌圧測定値の再現性と,従来の口腔・構音・嚥下機能評価項目との関連について調査した.本器によって測定した舌圧値の信頼性(安定性)は,障害群と対照群の舌圧値の標準偏差(障害群平均2.8 kPa,対照群平均2.2 kPa)が先行研究の結果(平均3.1 kPa)と同等であることから推定した.

    また,舌圧値と従来の手法による評価法との関連性について,以下の知見を得た.障害群は,対照群よりも有意に低い舌圧値を示した.嚥下障害グレードが中等症(Gr 4~6)および軽症(Gr 7~9)の患者は,正常群(Gr 10)および対照群の患者より舌圧値が有意に低かった.また,準備期および口腔期に嚥下障害を有する患者の舌圧値は,対照群よりも有意に低値であった.RSST 2 回以下の患者の舌圧値は,RSST 3回以上の患者および対照群の舌圧値よりも有意に低かった.

    以上より,開発したJMS 舌圧測定器を用いて測定した舌圧値は,① 良好な再現性を示し,本器は,② 臨床上問題なく使用できることが明らかとなった.さらに,③ 測定した舌圧値と従来の機能評価との関連性も指摘できた.すなわち,舌圧の測定が,従来の定性的評価を主体とする機能評価に,客観的で定量的な指標を与え,例えば嚥下障害等の評価において,本舌圧測定器が臨床上有用な測定ツールとなることが示唆された.

  • 第2 報 偏食の実態と偏食に関連する要因の検討
    髙橋 摩理, 内海 明美, 大岡 貴史, 向井 美惠
    2012 年16 巻2 号 p. 175-181
    発行日: 2012/08/31
    公開日: 2020/06/07
    ジャーナル フリー

    地域療育センターを利用し,自閉症スペクトラム障害(以下ASD)と診断された小児338 名とその保護者を対象にアンケートを行い,偏食の実態を調査し,偏食に影響を与える要因の検討を行った.

    絶対食べない食材数と発達レベルとの関連が推察されたが,年齢との関連は明らかにすることができなかった.食べない食材は,年齢や発達レベルに大きな差はなく,「イカ・タコ」など食べにくい食材や野菜が多く,摂食機能との関連を検討する必要があると思われた.

    食べない食材数と感覚偏倚とでは,「触覚」「視覚」との関連が強く,保護者が食べない理由としてあげていた「食感」「見た目」と重なっていた.食材を加工し提供することは,「触覚」「視覚」への配慮となり,有効な対応法と思われた.食事場面だけでなく,生活全般を通して,発達レベルの向上や感覚偏倚の軽減を行うことが必要と推察された.

  • 浅野 一恵, 鈴木 崇之, 府川 恭子, 村上 哲一, 山倉 慎二
    2012 年16 巻2 号 p. 182-191
    発行日: 2012/08/31
    公開日: 2020/06/07
    ジャーナル フリー

    【目的】嚥下障害を有する重症心身障害児者の摂食嚥下特性に合った,新しいペースト食の開発.

    【対象】嚥下障害を主訴に当院摂食外来を受診し,従来のペースト食で臨床的誤嚥症状を認める20 名の重症児者.

    【方法】1.嚥下造影で固形または半固形検査食の誤嚥を認めた14 例の造影所見を検査食ごとに検討し,誤嚥パターンを分析した.2.それぞれの検査食の欠点を補う「まとまりペースト食」の開発を行った.3.頸部聴診法,経皮的動脈血酸素飽和度(以下SpO2)連続モニタリングを用いて,摂食場面の臨床評価を行った.4.各検査食と従来ペースト食,「まとまりペースト食」の物性測定を行った.5.対象者の1年後の摂食状況,転帰について,聞き取り調査を行った.

    【結果】1.誤嚥パターン分析の結果,食塊の全部または分離した一部がそのまま気管に流れ落ちる,嚥下時に食塊の一部がくずれて気管に流入する,咽頭に残留した食塊が唾液と混ざって誤嚥する,等の所見が観察された.2.トロミクリア1~1.2%,スベラガーゼ1~1.3%,水分40% を食材に添加して,嚥下障害を有する重症児者が嚥下しやすく誤嚥しにくい物性をもつ「まとまりペースト食」を開発した.3.臨床評価において,従来のペースト食摂食時にみられたムセ,喘鳴などの誤嚥兆候(20 例),SpO2<95 低下(10 例)は,「まとまりペースト食」摂食時には全例で軽減し,より安全であると判断された.4.物性測定の結果,「まとまりペースト食」はかたさ3,500~8,500 N/m2,付着性500~1,500 J/m3,凝集性0.55~0.6であり,従来のペースト食と比較するとかたさ,付着性が高かった.5.1 年後の転帰では,16 例が経口摂食を継続できており,発熱頻度または吸引頻度の減少のいずれかの効果を認めた.

    【結論】重症児の嚥下造影所見を分析して開発した「まとまりペースト食」は,臨床評価においても,嚥下障害を有する重症児者にとってより安全であると判断された.

短報
  • 大熊 るり, 藤島 一郎
    2012 年16 巻2 号 p. 192-197
    発行日: 2012/08/31
    公開日: 2020/06/07
    ジャーナル フリー

    【目的】摂食・嚥下障害スクリーニングのための質問紙の妥当性を検証するため,質問紙での評価と30 ml 水飲みテストの結果との関連につき検討する.

    【対象】リハビリテーション科外来に通院中の患者310 名.男性197 名,女性113 名で年齢は25~93 歳(平均66 歳).主な疾患は脳血管障害,脳外傷,神経・筋疾患などであった.

    【方法】質問紙は15 項目からなり,肺炎の既往,栄養状態,口腔・咽頭・食道機能,声門防御機構などが反映される構造で,3 段階で回答する.対象患者に対し質問紙での評価を行い,あわせて水飲みテスト(コップから30 ml の水を摂取;窪田,1982)を施行.各項目の回答と,水飲みテストのプロフィールとの関連について単変量解析をカイ二乗検定で行い,その後ロジスティック回帰分析(ステップワイズ:変数増加法)を行った.その際,質問紙については「A の回答あり」を異常とし,水飲みテストではプロフィール1, 2 を正常,3~5 を異常とした.

    【結果】カイ二乗検定では,質問紙の項目のうち,咽頭機能および声門防御機構を反映する項目で有意差が認められた.口腔・食道機能を反映する項目では関連が認められなかった.ロジスティック回帰分析では,「お茶を飲むときにむせることがありますか?」「やせてきましたか?」「食事中や食後にのどがゴロゴロすることがありますか」の3 項目が有意な因子としてあげられ,それぞれのオッズ比は11.96,10.75,3.80 であった.

    【考察】本質問紙には,水飲みテストの結果と高い関連性をもつ項目が認められ,それは「液体を飲む際のむせ」をチェックする項目であった.このことは,質問紙の項目に一定の妥当性があることを示していると考えられる.本質問紙を有効に活用すれば,誤嚥等のリスクを伴うことなく,30 ml の水飲みテストと同程度に摂食・嚥下障害のスクリーニングを行うことが可能であると考えられた.

  • ―退院後フォローの重要性について―
    若杉 葉子, 戸原 玄, 日野 多加美, 三瓶 龍一, 鰕原 賀子, 岡田 猛司, 島野 嵩也, 植松 宏
    2012 年16 巻2 号 p. 198-202
    発行日: 2012/08/31
    公開日: 2020/06/07
    ジャーナル フリー

    誤嚥性肺炎の原因である摂食・嚥下障害に地域中核病院として対応するため,当院に歯科摂食・嚥下外来が新設されて3 年が経過した.脳血管障害の摂食・嚥下障害に対しては,早期からの介入と同時に長期的な経過観察が必要であり,患者の全身状態や嚥下機能の変化に対応し,低栄養や脱水などの合併症や肺炎を予防することが重要である.一方,病院退院後に患者が誤嚥を経験しているという報告や,在宅や施設入居者の嚥下機能と栄養摂取方法が剥離しているという報告もみられ,摂食・嚥下障害患者の病院退院後の再評価の重要性が示唆されている.当院では,入院時から多職種協働で患者の嚥下機能を評価し,退院までの目標を設定して訓練を行ってきた.しかし,退院後のフォローが必要な場合も少なくない.今回,外来設立時からの3 年間で退院後も継続してフォローしていた患者について検討したところ,入院中のADL 改善度が大きい患者ほど,退院後の栄養摂取方法の改善度が高い傾向がみられた.また,食形態が低下した患者は認められず,退院後に食形態が改善し常食に到達した患者および胃瘻から離脱できた患者を認め,回復期リハビリテーション病院退院後の外来フォローの重要性が示唆された.今後は,退院後の患者を継続してフォローできる地域体制の整備が必要であると考えられた.

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