嚥下障害のスクリーニングテストには,反復唾液嚥下テスト(以下,RSST)などの方法がある.RSST は,感度が高くリスクが少ないので,広く臨床に普及している.嚥下反射惹起時には,舌骨下筋群ばかりでなく,舌骨上筋群にも運動がみられる.しかし,頸部皮下脂肪が厚い,甲状軟骨の位置が高いなどのために喉頭挙上の確認ができず,検査の実施が困難な場合がある.本研究でわれわれは,甲状軟骨触診と下顎下面触診を併用することで,嚥下反射の検出率を向上させる可能性について検討した.仮説の検証には,表面筋電図と嚥下音の同時測定のほか,嚥下造影(以下,VF)を使用して分析・検討を加えた.
方法は,健常高齢者23 名,嚥下障害者21 名に表面筋電図,甲状軟骨触診,下顎下面触診および嚥下音の同時計測を行った.触診については,嚥下反射があったと思われる際に,検査者が筋電図上にマークを付した.筋活動量は,絶対値処理後,積分法により算出した.また,表面筋電図の導出筋は,舌骨上筋群,舌骨下筋群とした.
その結果,それぞれの触診の際の嚥下反射惹起のマークと嚥下音を比較すると,健常高齢者においては,舌骨上筋群触診と甲状軟骨触診で97.5%,87.0% であり,嚥下障害者では91.9%,87.0% であった.
本研究において,30 秒間における筋疲労に有意差はなかった.以上のことから,甲状軟骨触診のみで嚥下反射の確認が困難な対象者に対し,下顎下面触診を併用することで,RSST の精度が向上すると考えられた.