日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
原著
嚥下障害を有する重症心身障害児者に対する新しいペースト食の開発
浅野 一恵鈴木 崇之府川 恭子村上 哲一山倉 慎二
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2012 年 16 巻 2 号 p. 182-191

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抄録

【目的】嚥下障害を有する重症心身障害児者の摂食嚥下特性に合った,新しいペースト食の開発.

【対象】嚥下障害を主訴に当院摂食外来を受診し,従来のペースト食で臨床的誤嚥症状を認める20 名の重症児者.

【方法】1.嚥下造影で固形または半固形検査食の誤嚥を認めた14 例の造影所見を検査食ごとに検討し,誤嚥パターンを分析した.2.それぞれの検査食の欠点を補う「まとまりペースト食」の開発を行った.3.頸部聴診法,経皮的動脈血酸素飽和度(以下SpO2)連続モニタリングを用いて,摂食場面の臨床評価を行った.4.各検査食と従来ペースト食,「まとまりペースト食」の物性測定を行った.5.対象者の1年後の摂食状況,転帰について,聞き取り調査を行った.

【結果】1.誤嚥パターン分析の結果,食塊の全部または分離した一部がそのまま気管に流れ落ちる,嚥下時に食塊の一部がくずれて気管に流入する,咽頭に残留した食塊が唾液と混ざって誤嚥する,等の所見が観察された.2.トロミクリア1~1.2%,スベラガーゼ1~1.3%,水分40% を食材に添加して,嚥下障害を有する重症児者が嚥下しやすく誤嚥しにくい物性をもつ「まとまりペースト食」を開発した.3.臨床評価において,従来のペースト食摂食時にみられたムセ,喘鳴などの誤嚥兆候(20 例),SpO2<95 低下(10 例)は,「まとまりペースト食」摂食時には全例で軽減し,より安全であると判断された.4.物性測定の結果,「まとまりペースト食」はかたさ3,500~8,500 N/m2,付着性500~1,500 J/m3,凝集性0.55~0.6であり,従来のペースト食と比較するとかたさ,付着性が高かった.5.1 年後の転帰では,16 例が経口摂食を継続できており,発熱頻度または吸引頻度の減少のいずれかの効果を認めた.

【結論】重症児の嚥下造影所見を分析して開発した「まとまりペースト食」は,臨床評価においても,嚥下障害を有する重症児者にとってより安全であると判断された.

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© 2012 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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