日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
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症例報告
孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病患者の口腔ケア経験
北川 栄二牧野 修治郎金藤 公人
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2013 年 17 巻 1 号 p. 68-75

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抄録

【緒言】クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob Disease,以下CJD と略す)は,脳に異常なプリオン蛋白が蓄積し脳神経細胞の機能が障害され,脳に海綿状の変化が出現するプリオン病のひとつである.今回,孤発性CJD 患者が永眠に至るまでの間,口腔ケアを経験したので,その概要を報告する.

【症例】50 代,男性.2009 年夏頃より運動障害と認知障害を認めるようになり,仕事に支障をきたすようになった.2010 年1 月に精査目的で当院脳神経内科に入院した.プリオン蛋白遺伝子解析の結果,孤発性CJD の確定診断が得られた.入院後,急速に失調症状が増悪し,意思疎通困難,寝たきり状態となった.また,経口摂取困難となり,経鼻経管栄養を開始した.

【経過】歯科口腔外科には,2010 年2 月に口腔ケアの依頼があった.開口障害,口唇の出血,口臭,口腔乾燥,多量の喀痰,上皮の付着などの問題点を認めた.開口障害のため,口腔ケアは難渋したが,通法に従って,バイトブロック,スポンジブラシ,ワンタフトブラシ,保湿剤などを駆使して行った.その結果,口唇の出血は治癒し,口臭や口腔乾燥の改善を認めた.また,一時的ではあるが発熱日数の減少を認めた.口腔ケアに際しては,ディスポーザブルの帽子,フェイスガード,手袋,予防着を着用し,終了後は廃棄焼却処分とした.

【考察】CJD 患者は,永眠に至るまでの間に,運動失調,嚥下不能になる時期が来る.また,開口障害や肺炎の発症は避けられない病態と考えられる.したがって,口腔ケアは必須であり,またケアを行うことで,口腔内の状態を改善し,肺炎発症予防にある程度貢献するものと思われた.プリオン蛋白は,通常の消毒・滅菌法では感染性を失わないことから,CJD 患者の口腔ケアの際に受傷しないこと,飛沫汚染しないことが必要である.また,可能な限り,ディスポーザブル製品で対応し,使用後は物品を廃棄処分することが望ましい.

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© 2013 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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