日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
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短報
食形態が高齢者の心身へ及ぼす影響の検討
―自律神経系の反応と主観的評価から―
光貞 美香
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2013 年 17 巻 3 号 p. 226-232

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抄録

【目的】食形態が高齢者の心身に及ぼす影響について,自律神経系の反応(収縮期血圧,脈拍,唾液アミラーゼ)および主観的評価から検討する.

【対象】A 地区で在宅生活を送っている高齢者18 名(男性6 名,女性12 名)で,平均年齢は69.1(±4.5)歳であった.

【方法】準実験的なクロスオーバーデザインを用いた.食形態を,固形バナナとつぶしたバナナとし,両形態摂取前後の自律神経系の変化は二元配置の分散分析,主観的評価はWilcoxon の順位和検定を用いて分析した.

【結果・考察】自律神経系の反応では,摂取前後で主効果があり,収縮期血圧値・脈拍値・唾液アミラーゼ値ともに摂取後で有意に低下していた(p<0.01).さらに,摂取形態と摂取時期による交互作用は認められなかった.以上より,固形・つぶしにかかわらず,自律神経系の活動は低下する傾向がみられ,これは,食べるという行為により安心感を得られた結果ではないかと考える.一方,主観的評価では,見た目・におい・味・温度・食感の5項目について評価した結果,5 項目すべてにおいてつぶしたバナナの場合のみ,有意に低下した(p<0.05).この結果より,バナナとわかってはいても,やはり固形での摂取を望んでいることが推測された.よって心理的な食欲の増進には,食形態が影響していると考えられる.

【結論】高齢者における自律神経系の活動は,食形態の違いにかかわらず低下し,主観的評価は,つぶしたバナナに対する評価が低く,固形での摂取を望んでいた.このことから,味と形は記憶の中でつながっており,それが一致しない場合に食欲低下を引き起こす可能性が考えられる.高齢になると,機能障害などから高齢者が経験していない食形態をとられることが多くなる.しかし,高齢者にとっては食べたい意欲を感じてもらうことが何よりも大切であり,高齢者の食欲を刺激するような食形態に整えることの重要性が示唆された.

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© 2013 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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