近年,口腔乾燥症患者の増加傾向が問題視されてきている.唾液には酵素や免疫グロブリンなどさまざまな成分が含まれており,口腔機能を維持するために重要な役割を果たしている.そのため,唾液分泌量が低下する口腔乾燥症は,QOL を低下させるだけでなく,口腔細菌叢にも影響を与えると考えられる.われわれは,脳腫瘍により重度の口腔乾燥がみられた1 症例の舌背部の口腔細菌叢を,T-RFLP 法およびクローンライブラリー法を用いて解析し,本症例に対してラクトフェリン,β グルカン,ヒアルロン酸を含有する口腔保湿スプレー適用後の口腔湿潤度と舌背部細菌叢への影響を評価した.3 週間以上の保湿スプレーの使用によって口腔湿潤度の改善が認められ,菌叢パターンを説明変数としてクラスター解析した結果,5 週間後の菌叢パターンは,口腔乾燥症状や疾患がなく定期的な口腔ケアを実施している3 名の健常高齢者の細菌叢パターンに近づいた.変化のみられた特徴的な細菌属として,介入前に口腔内から検出されたEubacterium 属,Actinobacterium 属,Peptostreptococcus 属があげられ,これらの細菌属は5 週間後には検出されなかった.以上のように,本症例においては,保湿スプレーの適用によって口腔湿潤度の上昇および菌叢変化がみられた.