日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
症例報告
嚥下障害にて発症した肺腺癌による髄膜癌腫症の1例
丸屋 淳佐藤 千寿子土佐 香織黒井 宏
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2014 年 18 巻 1 号 p. 37-43

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抄録

【緒言】髄膜癌腫症(以下,MC)は比較的稀であり,予後不良の疾患である.今回,嚥下障害を初発症状とした肺腺癌によるMC に対し,放射線治療,ゲフィチニブおよび摂食・嚥下リハビリテーションを組み合わせた治療を行い,経口摂取を獲得するに至った症例を経験したので報告する.

【症例】72 歳の女性.嚥下困難感のため当院耳鼻咽喉科を受診.喉頭ファイバーでは明らかな異常なし.消化器科および神経内科に紹介されたが,いずれにおいても異常なしと診断された.その後,経口摂取困難で脱水状態となり,当院内科に入院した.入院時,嚥下障害(両側舌咽・迷走神経麻痺,左舌下神経麻痺)が明瞭化していた.さらに,左動眼神経麻痺,右外転神経麻痺が認められた.胸部CTおよびCT下経皮的穿刺肺細胞診にて肺腺癌が明らかとなり,頭部MRI によりMC と診断した.

【経過】MCに対し全脳照射を施行した.上皮成長因子受容体遺伝子変異陽性と判明したため,胃瘻造設を行ったうえでゲフィチニブ(上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤)の投与を開始した.その後,脳神経麻痺の改善を認め,嚥下造影検査にて経口摂取可能と判断し,直接嚥下訓練を開始した.最終的に,部分介助によって軟菜食の経口摂取が可能となった.

【考察】嚥下障害のみを初発症状とするMCは,本邦ではほとんど報告がなく,きわめて稀である.嚥下障害に引き続き他の脳神経麻痺が出現し,それらが急速に進行する場合は,MC の可能性に注意を払う必要があると考える.肺腺癌からのMC は一般的に予後不良ではあるものの,本症例においてはゲフィチニブが有効で,嚥下機能が改善し日常生活動作も向上した.MC の治療過程においては,症状の変化に合わせたきめ細かな評価と配慮が必要であるが,特に摂食・嚥下機能に改善傾向が認められた場合は,予後不良と諦めることなく適切に対応することが非常に重要であると示唆された.

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© 2014 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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