日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
18 巻, 1 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
原著
  • 中野 雅徳, 尾崎 和美, 白山 靖彦, 松山 美和, 那賀川 明美, 中江 弘美, 伊賀 弘起, 大熊 るり, 藤島 一郎
    2014 年18 巻1 号 p. 3-12
    発行日: 2014/04/30
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    【目的】介護者向けの口腔ケア支援簡易版アセスメントシートを開発し,その信頼性と妥当性を検証した.

    【対象と方法】アセスメントシートは,口腔衛生,口腔機能および口腔ケアに対するリスクを評価する10項目と,聖隷式嚥下質問紙から選択した摂食・嚥下障害スクリーニングのための10 項目からなる.聖隷式嚥下質問紙開発時のオリジナルデータを用いて,スクリーニングの感度,特異度およびCronbach のa係数を算出するとともに評価基準について検討した.某県内の特別養護老人ホーム3 施設の介護職34 名(平均介護経験6.0 年)が,アセスメントシートを用いて143 名の入所者(平均年齢86.6 歳)に対して行った評価結果を解析し,信頼性およびスクリーニングの評価基準の妥当性について検証した.

    【結果および考察】悪い状態を示すAの回答が1つでもあれば摂食・嚥下障害ありとするスクリーニング条件では,感度86.0%,特異度88.9% であった.これに合計スコアに対するカットオフ値4 点の条件を加えると,さらに感度は向上した.また,介護職と入所者の条件に差がない3 施設間で行った実際のアセスメント結果において,口腔衛生,口腔機能および摂食・嚥下の各スコアに施設間で差は認められなかった.

    摂食・嚥下障害のスクリーニングツールとしての本アセスメントシートの信頼度は,聖隷式嚥下質問紙同様に高かった.各スコアの評価結果に3 施設間で差がみられなかったのは,写真や解説などの評価基準を併記した結果,歯科専門職ではない介護職においても安定した評価を導き出せたことによるものと思われる.「A の回答が1 つでもある」または「カットオフ値4 点」のいずれかを満たすという判定基準を適用した摂食・嚥下障害の有病率は,内外の高齢者施設の有病率の報告と近似していた.以上の結果より,今回開発した口腔ケア支援簡易版アセスメントシートの有用性は高いと思われる.

  • ―粘度およびLine Spread Test値の範囲設定―
    宇山 理紗, 藤谷 順子, 大越 ひろ, 栢下 淳, 前田 広士, 小城 明子, 髙橋 浩二, 藤島 一郎
    2014 年18 巻1 号 p. 13-21
    発行日: 2014/04/30
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    【目的】嚥下障害症例の臨床で,とろみ調整食品は広く用いられているが,とろみレベルの定義と物理的特性については標準化されていない.本研究は,官能評価によって3 段階のレベルのとろみを設定し,とろみの官能評価値と粘度およびLST 値を比較検討するために行った.

    【方法】市販の6 種のとろみ調整食品(デンプン系1 種,グアーガム系1 種,キサンタンガム系4 種),各4 段階の濃度で作製した24のとろみ液試料を,摂食嚥下障害の臨床に5年以上たずさわる医療関係者42名が,5 段階(1:薄いとろみよりも薄い,2:薄いとろみ,3:中間のとろみ,4:濃いとろみ,5:濃いとろみより濃い)に評価した.各試料の粘度を,E 型粘度計を用いてずり速度50 s-1 で計測し,Line Spread Test によりLST 値を測定した.

    Pearson の相関係数(r)および回帰直線の決定係数(R2)を算出し,官能評価の総合評価の平均値と粘度,LST 値間に相関を検討した.さらに,キサンタンガム系による3 段階(薄いとろみ,中間のとろみ,濃いとろみ)のとろみ液を選出し,おのおのに相当する粘度とLST 値の範囲を検討した.

    【結果と考察】官能評価の平均値と粘度間に強い正の相関(r=0.769,R2=0.9183)を,官能評価の平均値とLST 値間に強い負の相関(r=-0.942,R2=0.8812)を,粘度とLST 値間では負の相関(r=-0.630,R2=0.7264)を認めた.

    粘度とLST 値の範囲は,「標準的な薄いとろみ」:55~100 mPa・s,43~40 mm,「標準的な中間のとろみ」:150~260 mPa・s,38~34 mm,「標準的な濃いとろみ」:400~450 mPa・s,32 ~30 mm とした.官能評価値と粘度,LST 値の間に強い相関がみられたことから,ずり速度50 s-1 の条件でのE 型粘度計の粘度測定およびLST 値は,とろみ液の物性の評価として有効であると考えられた.

  • 覚嶋 慶子, 林 豊彦, 道見 登, 谷口 裕重, 井上 誠
    2014 年18 巻1 号 p. 22-29
    発行日: 2014/04/30
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    【目的】 摂食・嚥下リハビリテーションのひとつにメンデルソン手技がある.この手技には,患者への教示や動作習得が困難などの臨床的な問題がある.そこでわれわれは,喉頭運動を直接視覚にフィードバックしながら喉頭挙上訓練を行えるシステムを開発してきた.これまで,短期間の訓練効果は,健常者および高齢者を用いて実験的に検証した.次の段階として,今回は,高齢者において連続した5 日間にわたる喉頭挙上訓練の効果を検証した.

    【方法】 被験者は,男性健常高齢者10 名(平均70.3±4.6 歳)とした.1 回の喉頭挙上動作は,5 秒間喉頭をできるだけ高い位置に保つとした.次の3 ステップで,喉頭挙上訓練を5 日間継続して行った:1)画面を見ない,2)画面を見る,3)画面を見ない.分析パラメータは,1)喉頭挙上量[mm],2)喉頭挙上時間[s],3)5 mm 喉頭挙上時間[s],4)10 mm 喉頭挙上時間[s]の4 つとした.

    【結果】 喉頭挙上量は,5 日目のステップ1/2 間で有意な増加が確認できた.挙上時間は,3 パラメータすべてで1 日目のステップ1/2 間に,5 mm 喉頭挙上時間および10 mm 喉頭挙上時間で5 日目のステップ1/2 間に有意な増加が確認できた.1 日目/ 5 日目間の比較では,喉頭挙上量と5 mm 喉頭挙上時間において,ステップ2 で有意な増加が確認できた.

    【考察】 喉頭挙上量では,5 日間の継続訓練により,喉頭挙上法が習得できたと考えられる.安静位以上の喉頭挙上および安静位から5 mm 以上の喉頭挙上は,ともに5 日間で習得可能であった.視覚バイオフィードバックは,5 mm 以上の挙上に効果的であった.一方,安静位から10 mm 以上の喉頭挙上は,視覚バイオフィードバックを用いれば長く挙上できたが,5 日間では必ずしも習得できなかった.以上から,視覚バイオフィードバックを用いた継続訓練は,「喉頭挙上量の増加」,「喉頭の高い位置での維持」に有効であると考えられる.

短報
  • 渡邉 光子, 沖田 啓子, 佐藤 新介, 瀧本 泰生, 岡本 隆嗣, 栢下 淳
    2014 年18 巻1 号 p. 30-36
    発行日: 2014/04/30
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    嚥下障害の問診を効率よく行うため,質問紙が近年使用されている.われわれは,米国で開発された質問紙,10 の質問項目から構成されているEAT-10 原版(Belafsky ら,2008)を翻訳し,EAT-10 日本語暫定版(以下,EAT-10 暫定版)を作成した.EAT-10暫定版が日本人においても使用可能であるか,また原版と同じく合計得点3 点を嚥下障害疑いありと判定することが妥当であるか,を検討した.

    対象は回復期リハビリテーション病棟に入院した患者145 名(平均年齢67.8±1.2 歳)で,そのうち医療チームにより,嚥下障害ありと判断されたのは58 名であった.対象患者に,入院2 週間以内にEAT-10 暫定版を実施し,合計得点ごとに敏感度と特異度を算出し,嚥下障害疑いありと判定できるカットオフポイントを検討した.

    医療チームにより嚥下障害ありと判断された患者をもとに,原版で使用している3 点以上にてEAT-10暫定版で判定した場合,対象患者は66 名であり,敏感度77.6%,特異度75.9% であった.以上より,EAT-10 暫定版は,原版同様カットオフポイント3 点以上にて,わが国でも使用することが可能であると考えられた.

症例報告
  • 丸屋 淳, 佐藤 千寿子, 土佐 香織, 黒井 宏
    2014 年18 巻1 号 p. 37-43
    発行日: 2014/04/30
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    【緒言】髄膜癌腫症(以下,MC)は比較的稀であり,予後不良の疾患である.今回,嚥下障害を初発症状とした肺腺癌によるMC に対し,放射線治療,ゲフィチニブおよび摂食・嚥下リハビリテーションを組み合わせた治療を行い,経口摂取を獲得するに至った症例を経験したので報告する.

    【症例】72 歳の女性.嚥下困難感のため当院耳鼻咽喉科を受診.喉頭ファイバーでは明らかな異常なし.消化器科および神経内科に紹介されたが,いずれにおいても異常なしと診断された.その後,経口摂取困難で脱水状態となり,当院内科に入院した.入院時,嚥下障害(両側舌咽・迷走神経麻痺,左舌下神経麻痺)が明瞭化していた.さらに,左動眼神経麻痺,右外転神経麻痺が認められた.胸部CTおよびCT下経皮的穿刺肺細胞診にて肺腺癌が明らかとなり,頭部MRI によりMC と診断した.

    【経過】MCに対し全脳照射を施行した.上皮成長因子受容体遺伝子変異陽性と判明したため,胃瘻造設を行ったうえでゲフィチニブ(上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤)の投与を開始した.その後,脳神経麻痺の改善を認め,嚥下造影検査にて経口摂取可能と判断し,直接嚥下訓練を開始した.最終的に,部分介助によって軟菜食の経口摂取が可能となった.

    【考察】嚥下障害のみを初発症状とするMCは,本邦ではほとんど報告がなく,きわめて稀である.嚥下障害に引き続き他の脳神経麻痺が出現し,それらが急速に進行する場合は,MC の可能性に注意を払う必要があると考える.肺腺癌からのMC は一般的に予後不良ではあるものの,本症例においてはゲフィチニブが有効で,嚥下機能が改善し日常生活動作も向上した.MC の治療過程においては,症状の変化に合わせたきめ細かな評価と配慮が必要であるが,特に摂食・嚥下機能に改善傾向が認められた場合は,予後不良と諦めることなく適切に対応することが非常に重要であると示唆された.

  • 田端 宏充, 川田 賢介, 小川 貴央, 坂本 光央, 吉田 智, 鈴木 靖志, 植田 耕一郎, 辨野 義己, 石川 好美
    2014 年18 巻1 号 p. 44-52
    発行日: 2014/04/30
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    近年,口腔乾燥症患者の増加傾向が問題視されてきている.唾液には酵素や免疫グロブリンなどさまざまな成分が含まれており,口腔機能を維持するために重要な役割を果たしている.そのため,唾液分泌量が低下する口腔乾燥症は,QOL を低下させるだけでなく,口腔細菌叢にも影響を与えると考えられる.われわれは,脳腫瘍により重度の口腔乾燥がみられた1 症例の舌背部の口腔細菌叢を,T-RFLP 法およびクローンライブラリー法を用いて解析し,本症例に対してラクトフェリン,β グルカン,ヒアルロン酸を含有する口腔保湿スプレー適用後の口腔湿潤度と舌背部細菌叢への影響を評価した.3 週間以上の保湿スプレーの使用によって口腔湿潤度の改善が認められ,菌叢パターンを説明変数としてクラスター解析した結果,5 週間後の菌叢パターンは,口腔乾燥症状や疾患がなく定期的な口腔ケアを実施している3 名の健常高齢者の細菌叢パターンに近づいた.変化のみられた特徴的な細菌属として,介入前に口腔内から検出されたEubacterium 属,Actinobacterium 属,Peptostreptococcus 属があげられ,これらの細菌属は5 週間後には検出されなかった.以上のように,本症例においては,保湿スプレーの適用によって口腔湿潤度の上昇および菌叢変化がみられた.

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