【目的】全身の筋力の指標とされる握力や,嚥下機能との関連が報告される舌圧が,嚥下に関わる筋群の筋力を反映すると仮定し,嚥下造影(videofluoroscopic examination of swallowing; 以下VF),嚥下内視鏡(videoendoscopic examination of swallowing; 以下VE)時の咽頭残留との関連について検討した.
【対象と方法】当院でVF・VE を実施した男性嚥下障害患者38 名(平均年齢80.0±9.6 歳)を対象とした.
握力測定にはスメドレー式握力計を,舌圧測定には舌圧測定器TPM-01(JMS社製)を用いた.咽頭残留はVF・VE 時のとろみ検査食の残留を評価した.検査食は,とろみ剤を添加した水分でピュレ/ ペースト状のものを使用した.咽頭残留は喉頭蓋谷,梨状窩の2 個所に分け,残留あり/ 残留なしの2 段階で評価した.
① 対象者全体 ② 疾患別(脳病変あり/ なし) ③ 年齢別(75 歳未満/ 75 歳以上)について,咽頭残留の有無による平均握力・舌圧の差を検討した.
【結果】全体平均は,握力22.5±9.0 kg,舌圧21.5±7.4 kPa であった.対象者全体では,梨状窩残留を認めたもので握力が有意に低下していた.疾患別の検討では脳病変なし群で,年齢別の検討では75 歳以上群で,梨状窩残留を認めたもので握力・舌圧が有意に低下していた.喉頭蓋谷残留に関しては,残留の有無で握力・舌圧の有意差はみられなかった.
【考察】疾患や年齢の条件によっては握力・舌圧と梨状窩残留の関連がみられ,一定の条件下では握力・舌圧が嚥下筋群の筋力を反映する可能性が考えられた.脳病変のない内科・手術後群,高齢者群では,加齢や疾患,低栄養という特徴からサルコペニアによる筋力低下が生じ,これが総合的に影響して嚥下筋力低下につながり嚥下評価時の咽頭残留として現れたのではないかと考えられた.