2015 年 19 巻 1 号 p. 24-32
【目的】認知症や高齢嚥下障害患者の中には,ミキサー食などの嚥下調整食では摂取量は少ないが,食形態が常食に近い嚥下調整食では摂取量が多くなる例を経験する.本研究では,食品を視覚認知する段階で,認知刺激が脳血流と嚥下機能に与える影響について検討した.
【対象と方法】健常成人31 名(男性19 名,女性12 名)を対象とし,形状の整った食品(常食)と常食をミキサー状にした調整食(ミキサー食)の画像を視覚刺激課題とし,iPad を用いて視覚認知させた.研究1 では,近赤外光トポグラフィー(Near-infrared spectroscopy:NIRS)を用いて前頭前野での酸素化ヘモグロビン濃度(Oxy-Hb 濃度)の変化を測定した.研究2 では,反復唾液嚥下テスト(the Repetitive Saliva Swallowing Test:RSST)および唾液アミラーゼ活性を測定した.また,対象31 名のうち22 名(男性12 名,女性10 名)において再現性の検討を行った.
【結果】研究1 では,常食はミキサー食よりも有意に高いOxy-Hb 濃度の値を示した(p<0.05).しかし,再現性は低かった(ICC=0.01).研究2 では,常食はミキサー食よりもRSST の回数が有意に多かった(p<0.01).また,高い再現性も示した(ICC=0.62).唾液アミラーゼ活性値には有意差を認めず,再現性も低かった(ICC=0.43).
【考察】研究1 では,ミキサー食よりも常食のOxy-Hb 濃度の値が高い例においては,食欲が刺激され,扁桃体から前頭前野への投射経路が活性化された可能性がある.しかし,その再現性は低く,学習による慣れや前頭葉における視覚情報以外の情報処理の影響が考えられた.研究2 では,ミキサー食よりも常食でRSST が多かった要因として,嚥下反射惹起性の亢進および唾液分泌量の増加が考えられた.再現性がみられたことより,前頭葉の影響が少なく,視覚刺激が直接脳幹へ投射された可能性が考えられた.