日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
原著
嚥下困難の自覚が無い高齢者の嚥下状態におよぼす粘稠液状食品の物性の影響
―嚥下造影検査と官能評価による嚥下状態の検討―
高橋 智子二藤 隆春田山 二朗大越 ひろ
著者情報
ジャーナル フリー

2015 年 19 巻 1 号 p. 17-23

詳細
抄録

【目的】本研究では,キサンタンガムを主原料とする市販とろみ調整食品により調製した粘稠液状食品の物性と被験者の嚥下状態の関係について,嚥下困難の自覚や咽喉頭・頸部領域の病変のない高齢被験者により検討した.

【方法】本研究で用いた粘稠液状食品試料の硬さは,市販とろみ調整食品無添加試料として硬さ2×102 N/m2 試料(造影剤単体試料:非イオン性血管造影剤),市販とろみ調整食品添加試料として硬さ4×102 N/m2 試料,硬さ1.6×103 N/m2 の3 段階である.粘稠液状食品の物性は,テクスチャー特性,粘性率の測定を行った.被験者の嚥下状態の検討は,順位法による官能評価,および嚥下造影検査の2 つの手法により同時に行った.

【結果・考察】本研究の結果より,軟らかく,粘性率が低く,ニュートン流動を示した硬さ2×102 N/m2試料は,舌骨が急速前方運動を開始してから食塊が梨状陥凹に到達するまでの時間がとろみをつけた他の試料に比べ,有意に短いことが認められた(嚥下反射惹起遅延時間が短い).このことは,気道閉鎖が十分に行われないうちに,硬さ2×102 N/m2 試料が他の試料に比べて梨状陥凹に早く到達することを示しており,そのため高齢被験者の一部に喉頭流入が認められたものと考えられる.また,粘性率,およびテクスチャー特性の付着性が大きく,官能評価結果からべたつき感をより多く口中で感じた硬さ1.6×103 N/m2試料は,口腔移送時間の延長が認められた.

【結論】本研究より,嚥下困難の自覚が無い高齢者は,さらさらとした液状食品を嚥下する際,喉頭流入,それに続く誤嚥のリスクが高まることが示唆された.嚥下困難の自覚が無い高齢者でも,さらさらとした液状食品を喫食する際は,適度なとろみをつけることで,より安全な嚥下を確保できると考えられる.

著者関連情報
© 2015 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
前の記事 次の記事
feedback
Top