日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
19 巻, 1 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
原著
  • 小西 勝
    2015 年 19 巻 1 号 p. 3-10
    発行日: 2015/04/30
    公開日: 2020/04/24
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究では,非イオン性水溶性ヨード系造影剤(ビジパーク320®)を水とともに炊飯前に米へ加え,炊飯器で炊飯する方法で作製した嚥下造影検査用炊飯米が,造影剤の入っていない米と比較して,どのような違いがあるのかを検討することを目的とした.

    【方法】材料は無洗米と非イオン性水溶性ヨード系造影剤のビジパーク320® で,炊飯器はSTK-A550®(サタケ,広島)を使用した.下記分量にて,炊飯器で通常炊飯を行った.なお,試料1 はコントロールとして作製した.

      試料1:無洗米300 g +水420 ml

      試料2:無洗米300 g +ビジパーク320® 150 ml +水270 ml

    作製した試料について,電子顕微鏡観察および元素分析,炊飯食味分析,硬さ粘り分析を行った.

    【結果】電子顕微鏡観察において,試料1 ではみられなかった付着物が試料2 では認められた.元素分析では,試料2 の表面から中心に至るまでヨードを含有していた.炊飯食味計での測定結果については,試料2 は試料1 と比較して,食味値,外観,テクスチャーに関わる項目の値はすべて統計学的に有意に高い値を示したが,いずれも炊飯米としては,良いと判断される値に含まれていた.

    【結論】電子顕微鏡写真で,検査用炊飯米の表面および内部に造影剤の析出物と思われるものが存在しており,元素分析では表面から中心に近づくにつれて漸次 ヨードの含有割合は減少しているものの,中心部までその存在が確認できた.また,炊飯食味計による測定では,食味値,外観,硬さ,粘り,バランスいずれも,通常食されている炊飯米と比較しても良好な結果であった.

  • 若杉 葉子, 野原 幹司, 奥野 健太郎, 深津 ひかり, 上田 菜美, 戸原 玄, 阪井 丘芳
    2015 年 19 巻 1 号 p. 11-16
    発行日: 2015/04/30
    公開日: 2020/04/24
    ジャーナル フリー

    嚥下機能検査における誤嚥の有無と検査後の実生活における発熱や肺炎発症の有無は必ずしも一致せず,乖離がみられることが少なくない.我々は,検査後の経過を評価する指標として,体内の炎症反応の指標となるC 反応性蛋白(以下,CRP)を用いている.今回,微量採血から測定可能な簡易CRP を用いて,誤嚥の有無とCRP, 経過時の発熱の関係を調べたので報告する.

    対象は,嚥下障害が疑われる65 歳以上の患者68 例.嚥下内視鏡検査(以下,VE)により誤嚥の有無を評価した.同日にCRPを測定し,0.3 mg/dl 未満を陰性とした.また,検査後3 カ月以内の発熱の有無を評価し,VE 結果,CRP 判定,経過時の発熱の有無の関係について検討した.

    VE 結果とCRP 判定では,誤嚥なし19 例中5 例,顕性誤嚥22 例中11 例,不顕性誤嚥27 例中14 例がCRP 陽性であり,3 群のCRP 陽性率に有意差は認めなかった.VE 結果と発熱の有無では,誤嚥なし19 例中8 例,顕性誤嚥22 例中9 例,不顕性誤嚥27 例中13 例に発熱を認め,3 群間の発熱の有無に有意差は認めなかった.CRP 判定と発熱の有無では,CRP 陰性38 例中10 例,CRP 陽性30 例中20 例に発熱を認め,2 群間で有意差を認めた.

    検査時の誤嚥の有無と,検査後の実生活における発熱およびCRP 判定は乖離していた.検査時の誤嚥は,体内の炎症反応や検査後の発熱と直結しない可能性が示唆された.

  • ―嚥下造影検査と官能評価による嚥下状態の検討―
    高橋 智子, 二藤 隆春, 田山 二朗, 大越 ひろ
    2015 年 19 巻 1 号 p. 17-23
    発行日: 2015/04/30
    公開日: 2020/04/24
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究では,キサンタンガムを主原料とする市販とろみ調整食品により調製した粘稠液状食品の物性と被験者の嚥下状態の関係について,嚥下困難の自覚や咽喉頭・頸部領域の病変のない高齢被験者により検討した.

    【方法】本研究で用いた粘稠液状食品試料の硬さは,市販とろみ調整食品無添加試料として硬さ2×102 N/m2 試料(造影剤単体試料:非イオン性血管造影剤),市販とろみ調整食品添加試料として硬さ4×102 N/m2 試料,硬さ1.6×103 N/m2 の3 段階である.粘稠液状食品の物性は,テクスチャー特性,粘性率の測定を行った.被験者の嚥下状態の検討は,順位法による官能評価,および嚥下造影検査の2 つの手法により同時に行った.

    【結果・考察】本研究の結果より,軟らかく,粘性率が低く,ニュートン流動を示した硬さ2×102 N/m2試料は,舌骨が急速前方運動を開始してから食塊が梨状陥凹に到達するまでの時間がとろみをつけた他の試料に比べ,有意に短いことが認められた(嚥下反射惹起遅延時間が短い).このことは,気道閉鎖が十分に行われないうちに,硬さ2×102 N/m2 試料が他の試料に比べて梨状陥凹に早く到達することを示しており,そのため高齢被験者の一部に喉頭流入が認められたものと考えられる.また,粘性率,およびテクスチャー特性の付着性が大きく,官能評価結果からべたつき感をより多く口中で感じた硬さ1.6×103 N/m2試料は,口腔移送時間の延長が認められた.

    【結論】本研究より,嚥下困難の自覚が無い高齢者は,さらさらとした液状食品を嚥下する際,喉頭流入,それに続く誤嚥のリスクが高まることが示唆された.嚥下困難の自覚が無い高齢者でも,さらさらとした液状食品を喫食する際は,適度なとろみをつけることで,より安全な嚥下を確保できると考えられる.

  • 神谷 正樹, 太田 喜久夫, 森島 圭佑, 澤 俊二, 近藤 和泉
    2015 年 19 巻 1 号 p. 24-32
    発行日: 2015/04/30
    公開日: 2020/04/24
    ジャーナル フリー

    【目的】認知症や高齢嚥下障害患者の中には,ミキサー食などの嚥下調整食では摂取量は少ないが,食形態が常食に近い嚥下調整食では摂取量が多くなる例を経験する.本研究では,食品を視覚認知する段階で,認知刺激が脳血流と嚥下機能に与える影響について検討した.

    【対象と方法】健常成人31 名(男性19 名,女性12 名)を対象とし,形状の整った食品(常食)と常食をミキサー状にした調整食(ミキサー食)の画像を視覚刺激課題とし,iPad を用いて視覚認知させた.研究1 では,近赤外光トポグラフィー(Near-infrared spectroscopy:NIRS)を用いて前頭前野での酸素化ヘモグロビン濃度(Oxy-Hb 濃度)の変化を測定した.研究2 では,反復唾液嚥下テスト(the Repetitive Saliva Swallowing Test:RSST)および唾液アミラーゼ活性を測定した.また,対象31 名のうち22 名(男性12 名,女性10 名)において再現性の検討を行った.

    【結果】研究1 では,常食はミキサー食よりも有意に高いOxy-Hb 濃度の値を示した(p<0.05).しかし,再現性は低かった(ICC=0.01).研究2 では,常食はミキサー食よりもRSST の回数が有意に多かった(p<0.01).また,高い再現性も示した(ICC=0.62).唾液アミラーゼ活性値には有意差を認めず,再現性も低かった(ICC=0.43).

    【考察】研究1 では,ミキサー食よりも常食のOxy-Hb 濃度の値が高い例においては,食欲が刺激され,扁桃体から前頭前野への投射経路が活性化された可能性がある.しかし,その再現性は低く,学習による慣れや前頭葉における視覚情報以外の情報処理の影響が考えられた.研究2 では,ミキサー食よりも常食でRSST が多かった要因として,嚥下反射惹起性の亢進および唾液分泌量の増加が考えられた.再現性がみられたことより,前頭葉の影響が少なく,視覚刺激が直接脳幹へ投射された可能性が考えられた.

  • 古内 洋, 田畑 恵太, 中島 舞, 庄司 俊雄, 河原 仁志, 青木 義満
    2015 年 19 巻 1 号 p. 33-40
    発行日: 2015/04/30
    公開日: 2020/04/24
    ジャーナル フリー

    【目的】ソフト食やペースト食が嚥下障害患者の食事に選ばれることも多い.しかし,これらの食事は,単なる形態の変化だけではなく味についても影響を与えるため,患者の嗜好と一致することは少ない.患者が楽しく,おいしく,安全に食事を続けていくためには,誤嚥の危険の回避とともに,食欲を増す食事の提供は必要不可欠である.そこで我々は,味覚による嗜好が嚥下機能に及ぼす影響について,喉頭挙上の動きを定量的に評価できる「非接触・無侵襲咽喉器官運動分析装置(NESSiE)」を用いて検討した.

    【対象】健常な成人ボランティア55 人(30 歳代11 人,40 歳代11 人,50 歳代12 人,60 歳代8 人,70 歳代13 人).

    【方法】事前に摂食支援回復食「あいーと」(イーエヌ大塚製薬株式会社製)全28 種類を試食してもらい,おのおのの被験者が最も好む食品を嗜好食品として使用した.検査は,椅子座位で体幹角度70 度,頸部は自然な状態で,視覚情報が味覚や咀嚼に影響しないようアイマスクを装着して行った.味のみを評価するため,嗜好食品と嗜好性を低下させるために同一食品に苦みを加えた食品をティースプーン1 杯ずつ口腔内に入れ,咀嚼や嚥下を自由に被験者に食べてもらった.嚥下時間は,嗜好食品と苦みを加えた食品の2 種類をランダムに3 回ずつ合計6 回食べ,おのおの3 回の嚥下時間の平均値を採用した.

    【結果】50 歳代以降はすべての年代で,苦みの加わった食品にて嚥下時間が有意に延長した.30 歳代と40 歳代では延長はみられなかった.

    【結論】苦みが,味覚ネットワークを通じて円滑な嚥下運動を行うためのプログラムに何らかの影響を与え,嚥下運動における舌骨上筋群の動きを阻害した可能性が示唆された.また,味などの嗜好による喉頭運動の差異は,加齢による嚥下機能の低下の一部であることも考えられる.

  • 神作 一実, 向井 美惠, 弘中 祥司
    2015 年 19 巻 1 号 p. 41-51
    発行日: 2015/04/30
    公開日: 2020/04/24
    ジャーナル フリー

    【目的】3 種類の異なる形状のスプーンを用いて,スプーンの形状が捕食に及ぼす影響を明らかにした.

    【対象と方法】対象は,健康な若年成人47 名(男性10 名,女性37 名,平均年齢20.5 歳±0.82)である.3 種類のスプーンのボウル部に小型圧力センサを埋入し,柄にひずみ計をつけた.3 種類のスプーンの幅/長さ/ ボウル部の縁からセンサまでの深さ/ ボウル部の縁からボウル部の底までの厚さは,スプーンa: 28/43/1/4 mm,スプーンb: 28/34/1/6 mm,スプーンc: 28/34/1/4 mm である.これらのスプーンにプリン4 ml をのせ,自食にて摂取した.計測項目は,口唇圧積分値・口唇圧持続時間・口唇圧最大値,下唇接触積分値・下唇接触持続時間・下唇接触最大値(絶対値),曲げ積分値・曲げ持続時間・曲げ最大値である.また,波形パターンについて分析を行った.

    【結果と考察】3 種類のスプーン間で口唇圧各項目には有意差は認められなかったが,ボウル部の厚いスプーンb では,下唇接触積分値・下唇接触最大値(絶対値),曲げ最大値が有意に大きくなることが示された.スプーンb では,捕食時にスプーンを下唇に接触させ,よりスプーンの安定性を高めていること,ボウル部のカーブに沿うように操作しながらスプーンを引き抜いていることが考えられた.一方,すべてのスプーンの捕食において,下唇接触,曲げ,口唇圧波形の時間的関係を検討した結果,最初にボウル部が下唇に接触し,後に上唇に触れながらスプーンが引き抜かれ,その間に口唇圧が発生するという共通のパターンで行われていることが明らかとなった.

    【結論】スプーンのボウル部の形状は,自食時の捕食動態に影響を与えることが示唆された.

  • 田中 陽子, 中野 優子, 横尾 円, 武田 芳恵, 山田 香, 栢下 淳
    2015 年 19 巻 1 号 p. 52-62
    発行日: 2015/04/30
    公開日: 2020/04/24
    ジャーナル フリー

    【目的】Quality of Life(以下,QOL)の観点から,摂食嚥下障害がある場合は,食品の形態や物性に注意し,その能力に合った食事形態を選択することは重要である.医療施設ではどの食事形態を提供するかを医療スタッフが決定しているが,専門家のいない施設や在宅においては適切な判断が行えない可能性がある.本研究では,舌圧と食事形態の関連性および握力や歩行状況と食事形態の関連について検討し,これらを測定することで,提供する食事形態の目安になるか否かを検討した.

    【方法】被験者は,済生会広島病院入院患者および介護老人福祉施設はまな荘入所者のうち,調査の目的と方法の説明を受け,同意が得られた高齢者201名(男性36名,女性165名)とした.調査項目は,舌圧,握力,歩行状況,食事形態とした.

    【結果】舌圧および握力は,常食を摂取している患者と比較し,形態調整した食事を摂取している患者では低い値を示した.舌圧と握力の間にも有意な正の相関を認めた.舌圧は同じ食事形態内では男女差はなかったが,握力は同じ食事形態を摂取していても,男性は女性より有意に高かった.年齢と舌圧との間に相関関係は認めなかったが,年齢と握力との間には負の相関関係を認めた.歩行能力別では,舌圧と握力ともに,歩行群が車椅子群および寝たきり群と比較して有意に高く,車椅子群は寝たきり群と比較して有意に高かった.

     以上より,舌圧および握力と食事形態の関連性が明らかとなり,食事形態決定に際して,有効な指標のひとつとなる可能性を示唆したが,握力には男女差や年齢差を認めた.このことから,年齢や性別を考慮することが必要でない舌圧が,簡便な指標として利用可能であることが示唆された.また,歩行能力も,食事形態と関連していることが示された.このことから,舌圧と歩行能力が,どのような食事形態を提供するかを判断する際の参考になることが示唆された.

短報
  • 秦 さと子, 藤田 英恵, 伊東 朋子
    2015 年 19 巻 1 号 p. 63-68
    発行日: 2015/04/30
    公開日: 2020/04/24
    ジャーナル フリー

    【目的】夜間睡眠中に起こりやすい不顕性誤嚥は,高齢者肺炎の主要原因の一つであり,夜間睡眠中の嚥下機能の解明が高齢者肺炎予防の手がかりとなると考える.そこで,高齢者の夜間睡眠中の嚥下状態の実態および覚醒時の安静時唾液分泌量と嚥下反射潜時との関係を明らかにすることで,高齢者肺炎予防の一助となることを目的とした.

    【対象】嚥下障害の既往のない20 歳代成人10 名(若年者群)と,65 歳以上の高齢者9 名(高齢者群)とした.

    【方法】咽喉頭マイクロフォンを用いて睡眠中の嚥下音をIC レコーダーに録音し,音声波形に変換後,嚥下音と嚥下波形から嚥下回数を測定し,高齢者群と若年者群で比較した.また,日中覚醒時に嚥下反射潜時と,就寝前に安静時唾液分泌量を測定し,両者それぞれ,および年齢と嚥下頻度との関係を分析した.

    【結果・考察】夜間睡眠中の嚥下頻度は,高齢者群で平均4.22±1.06 回/ 時,若年者群で平均4.39±1.26回/ 時であった.対応のないt 検定を行ったところ,若年者群と高齢者群では有意な差はみられなかった.このことより,夜間睡眠中の嚥下頻度は加齢の影響を受けない可能性が示唆された.また,高齢者群の嚥下反射潜時は若年者群に比べ有意に延長しており,高齢者群の安静時唾液分泌量は若年者群に比べ有意に減少していた.しかし,嚥下頻度と安静時唾液分泌量,嚥下頻度と嚥下反射潜時,嚥下頻度と年齢にはすべて,有意な関係はなかった.このことより,健康高齢者の夜間睡眠中の嚥下頻度は,覚醒時の安静唾液分泌量や嚥下反射潜時からは推定することが難しい可能性が示唆された.

    【結論】夜間睡眠中の嚥下頻度は加齢性に減少しない可能性が示唆された.また,夜間睡眠中の嚥下頻度は,年齢や覚醒時の嚥下機能,唾液分泌量とは関係がない可能性が示唆された.

症例報告
  • 小池 一郎, 小口 和代, 保田 祥代
    2015 年 19 巻 1 号 p. 69-74
    発行日: 2015/04/30
    公開日: 2020/04/24
    ジャーナル フリー

    本症例は,23 歳の男性であった.勤務中,ベルトコンベアに頭部,体幹,左上肢を挟まれ左肩甲骨骨折,左多発肋骨骨折,左血気胸,両側肺挫傷と診断された.受傷1 日目,経口気管内挿管管理にて,保存的加療となった.受傷13 日目,挿管性と考えられる両側声帯麻痺を認めたため,気管切開術を施行し,カフ付側孔なしカニューレの装用を開始した.受傷17 日目,咽頭の唾液貯留や唾液誤嚥を認めたため,カニューレカフ上吸引ラインからの酸素送気による発声と唾液嚥下訓練(以下,送気訓練)を導入した.酸素1 ~ 3 l/min を使用し,喉頭侵入あるいは誤嚥した唾液を送気により吹き上げ,唾液嚥下を繰り返した.受傷34 日目,内視鏡や酸素送気の刺激で唾液分泌が増加し,送気訓練を継続的に実施するのは困難であったため,持続的酸素送気訓練から,間欠的に送気する方法に変更した.受傷42 日目,両側の声帯内転運動の改善と下咽頭から声門部の唾液貯留の減少を確認できたため,スピーチカニューレに変更した.受傷50 日目,スピーチカニューレを抜去した.

    経過中,送気訓練導入日である受傷17 日目と,スピーチカニューレ抜去日である受傷50 日目に随意的な唾液嚥下を計測した.評価方法は,本症例に「できるだけ何回も繰り返して唾液を飲むこと」を指示して,綿棒で口腔内を湿らせてから計測を行った.結果は,受傷17 日目と受傷50 日目それぞれにおいて送気なしに比し,送気ありでは随意的な唾液嚥下連続10 回実施所要時間の短縮を認めた.

    本症例は,送気により命令に応じた反復唾液嚥下回数を即時的に向上させ,唾液嚥下を繰り返すことで嚥下関連筋群を強化することができた.また,発声により声帯運動の廃用を最小限に抑えたことで,唾液処理の能力が改善した可能性が考えられた.

  • 佐藤 理恵
    2015 年 19 巻 1 号 p. 75-81
    発行日: 2015/04/30
    公開日: 2020/04/24
    ジャーナル フリー

    口腔ケアの提供の場は,在宅から病院,急性期から終末期と多様で,症例ごとにその適応や方法が異なる.口腔ケアの評価方法としては,衛生状態,嚥下の機能,栄養状態,誤嚥性肺炎の予防効果,生命予後の改善など多岐にわたる.一方,口腔は会話や摂食といった人の尊厳に関わる機能と直結する器官であり,そのケアは全人的である.しばしばケアを提供する側の成長も図られていくことを経験する.従来の評価だけでは,口腔ケアの多面性を評価できていない懸念があった.

    今回,2 例の終末期のがん患者の口腔ケアにおいて,看護記録や闘病日誌を参考にして質的研究を行いケアリング形成を客観的に評価することを試みた.その結果,患者─家族─医療者にケアリングの深化が示唆された事例を経験した.がん終末期の患者の口腔ケアでは,ケアの提供者と受給者の双方に積極的な影響が及びやすい傾向があるかもしれない.口腔ケアをケア提供者と受給者の関係性の視点でとらえる試みは,これからの課題でもある.口腔ケアとケアリングの関連を明らかにするためには,臨床で使用できる簡便なスコアリングが期待される

臨床ヒント
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