日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
症例報告
環境変化の影響で嚥下が確認できなかったと考えられた経管栄養児の1症例
大島 昇平服部 佳子木下 憲治
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2015 年 19 巻 2 号 p. 172-178

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抄録

摂食嚥下障害のある子どもへの援助には食べることの意欲を育て,食事を楽しんでもらえるようにしていくことが大切である.しかし,誤嚥性肺炎により,経口摂取が禁止されている経管栄養児では,安全に経口摂取できる条件が整わないと経口摂取を開始することは難しい.今回われわれは,経口摂取を禁止されていた障害児であったが,経口摂取が可能な条件を確認できた症例を経験したので報告する.

1歳6カ月の障害児が嚥下機能評価のため,小児科主治医の紹介により当院を受診した.重度の精神発達遅滞,呼吸障害,胃食道逆流症があり,過去の誤嚥性肺炎のため経口摂取が禁止されていた.11カ月に気管切開術を,1歳3カ月に胃瘻造設術を施行されて呼吸障害,胃食道逆流症は改善がみられたが,経口摂取は禁止されたままであった.初診時には,喘鳴が認められ,嚥下内視鏡検査でも下咽頭部に唾液の貯留が認められ,嚥下の確認はできなかった.嚥下造影検査においても嚥下が確認できなかったため,嚥下惹起不全と診断し,当科においても経口摂取禁忌と判断した.母親の希望により診察を継続した.母親からの情報では,患児は家では喘鳴がないことが多く,気切孔からの吸引も必要なく,ときどき嚥下音も聞こえるとのことであった.初診後3カ月は診察時に喘鳴が認めたられたが,その後は喘鳴がない時もあった.しかし,検査を試みると喘鳴が出現し,嚥下は確認できなかった.ここまでの経過と母親の情報から,患児は家庭では唾液を嚥下しているが,環境が変化すると唾液が適切に嚥下できなくなり,唾液が下咽頭部に貯留して誤嚥するため喘鳴が出現する可能性が考えられた.初診後8カ月の診察時には,喘鳴がない状態で嚥下造影検査を行ったところ,誤嚥なく嚥下ができることが確認でき,喘鳴のない時には直接訓練による摂食嚥下リハビリテーションが可能と判断した.直接訓練を開始して1年が経過したが,現在のところ誤嚥性肺炎は発症していない.

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© 2015 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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