日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
19 巻, 2 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
原著
  • 山縣 誉志江, 栢下 淳
    2015 年 19 巻 2 号 p. 109-116
    発行日: 2015/08/31
    公開日: 2020/04/22
    ジャーナル フリー

    【目的】嚥下障害者に提供するとろみの程度を示す共通言語として,日本摂食嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会から,学会分類2013(とろみ)が示された.この分類には,粘度値やLine Spread Test(LST)の値といった客観的な数値の範囲が示されているが,これは主にキサンタンガム系のとろみ剤を水に溶解した試料を用いた官能評価により,範囲が決定された.そこで本研究では,キサンタンガム系とは性質の異なるとろみを評価した場合に,粘度,LST 値にどのような影響が生じるのかを検証した.

    【方法】キサンタンガム系のとろみ3 種類,グアーガム系のとろみ1 種類,とろみつき栄養剤2 種類の計 6 種類の試料を用い,健常者161 名の官能評価による粘度の順位づけ,粘度測定およびLST を行い,これらが学会分類2013(とろみ)で評価される段階により比較を行った.

    【結果および考察】とろみつき栄養剤では,官能評価は中間のとろみまたは濃いとろみと評価されたが,粘度測定結果で濃いとろみまたは濃いとろみ以上,LST 値で薄いとろみ以下に分類された.グアーガム系のとろみでは,官能検査で中間のとろみと評価されたが,LST 値で薄いとろみに分類された.これらのことから,粘度値やLST値を学会分類2013(とろみ)で評価すると,キサンタンガム系のとろみとは性質の異なるとろみを用いた場合,ヒトの粘性感覚とは異なる場合があることが示された.学会分類2013(とろみ)を用いて,キサンタンガム系以外のとろみ剤や水以外の溶媒を使用した挙動の異なるとろみを評価する場合,このように学会分類に合わない試料があることを念頭に置いて使用する必要がある.

  • 藤原 葉子, 長谷 公隆, 永島 史生, 沖塩 尚孝
    2015 年 19 巻 2 号 p. 117-126
    発行日: 2015/08/31
    公開日: 2020/04/22
    ジャーナル フリー

    【目的】意識障害は,正確な嚥下機能評価や訓練を妨げ,誤嚥リスクを高める原因となる.急性期病院における嚥下リハ介入例の意識障害の合併率,および意識レベルと経口摂取確立の成否との関係について調査・検討した.

    【対象と方法】対象は,4 年間に嚥下リハを実施した498 名(年齢68±15 歳).嚥下リハ開始時と終了時の臨床的重症度分類(DSS)および摂食状況のレベル,Japan Coma Scale(JCS)の変化,介入期間を調べ,JCS 変化からみた経口摂取確立者数を後方視的に検討した.

    【結果】開始時に意識清明は86 名(17%)のみで,412 名(83%)に意識障害を認めた.開始時JCS の内訳は,Ⅰ桁334 名,Ⅱ桁76 名,Ⅲ桁2 名だった.終了時にも71% に意識障害が残存した.JCS とDSS の相関係数は開始時-0.28(p<0.001),終了時-0.47(p<0.001)と,有意な負の相関を認めた.開始時の機会誤嚥では,終了時JCS2 以下であれば95%以上が経口摂取を確立したが,JCS3 では67%だった.水分誤嚥は機会誤嚥と同様の結果だった.食物誤嚥および唾液誤嚥ではそれぞれ45%,34%が経口摂取を確立し,終了時JCS0 では70% 以上だったが,JCS1 およびJCS2 では50% 程度,JCS3 では食物誤嚥19%,唾液誤嚥5% だった.経口摂取を確立できなかった例の71% は,開始時に食物誤嚥か唾液誤嚥で,終了時にJCS Ⅰ桁以上の意識障害が残存した例だった.

    【結論】急性期病院の嚥下リハ介入例には高率に意識障害が合併し,終了時にも残存する例が多かった.JCS とDSS,摂食レベルの相関からは,意識レベルと摂食嚥下機能の改善が関連することが示された.開始時の嚥下障害重症度によって,意識レベルの改善度が経口摂取確立の成否に与える影響が異なることが示唆された.継時的なJCS 評価は,意識障害の改善を判定するだけでなく,嚥下リハの訓練効果を予測するうえでも重要だと考えられた.

  • ─紙上事例を用いて─
    米村 礼子, 堤 雅恵
    2015 年 19 巻 2 号 p. 127-135
    発行日: 2015/08/31
    公開日: 2020/04/22
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究の目的は,きわめて重い嚥下障害のある高齢患者の摂食援助に対する看護師の考え方を明らかにすることである.

    【方法】経口摂取への強い意思をもち,かつ誤嚥の危険性がきわめて高い83 歳男性の紙上事例を用いて,同一病院の看護師129 名の経口摂取への考え方を調査した.

    【結果】同じ人においても,家族としての立場では,看護師の立場よりも強く経口摂取の継続を望んでいた(p<0.01).また,看護師として経口摂取を続けるべきと強く考える人ほど,家族としても強く考えていた(r=0.731,p<0.01).紙上事例に類似した人が身近にいる人はいない人に比べて,家族の立場で考えた場合に経口摂取を続けることへの思いが強かった(p<0.01).

    【考察】同じ看護職種間で意見が分かれるのは,食べる喜びを患者に感じてもらいたいという気持ちと,誤嚥による苦痛と生命の危険を避けたいという気持ちが同時に起こり,ジレンマが生じるためと考えられる.

    【結論】本研究の結果から,同一職種である看護師においてもそれぞれが違う考えをもっている可能性を考慮しながら,例えばファシリテーションスキルのような,有効な意見交換と方針統一をはかる方法の必要性が示唆された.

  • 佐藤 理恵, 中村 友香, 石田 敬子, 中井 美佐子, 今田 直樹, 島田 節子, 藤井 辰義, 鮄川 哲二, 沖 修一, 荒木 攻
    2015 年 19 巻 2 号 p. 136-144
    発行日: 2015/08/31
    公開日: 2020/04/22
    ジャーナル フリー

    【目的】脳卒中急性期において誤嚥性肺炎発症は,リハビリの開始や継続,在院日数にも影響を及ぼす.脳卒中患者に対する口腔ケアを入院早期から実施することを標準化し,組織的に取り組むことで,患者のADL や予後の改善を目指した.

    【対象】2010 年4 月1 日から2013 年3 月31 日までに入院した脳卒中急性期患者で摂食機能療法の対象者336名のうち,標準化以前の介入前群70名と標準化された口腔ケアを実施した介入後群127名を対象とした.

    【方法】口腔ケアを多職種が関与できるように標準化し,さらに脳卒中急性期から早期介入する口腔ケアのフローチャートを組み込んだ.標準化以前の介入前群と1 年の周知定着期間をおいて標準化された口腔ケアを実施した介入後群の属性および,誤嚥性肺炎の有無,発熱の有無,気管挿管・気管切開の有無,胃瘻造設の有無,嚥下グレードの改善率,退院時日常生活動作,在宅復帰の有無の7 項目を比較した.分析には統計ソフトSPSS Ver.21 を使用し,統計学的有意水準は5% 未満とした.

    【結果】発熱の発生は有意に低下した(介入後群10.2%,介入前群37.1%).誤嚥性肺炎の発症に有意差はなかったが,発症を減少させた(介入後群13.4%,介入前群18.6%).胃瘻造設患者の減少(介入後群11.8%,介入前群24.3%),退院時の日常生活動作の改善(介入後群78.0%,介入前群60%),退院後の在宅復帰増加(介入後群63.8%,介入前群41.4%)は有意であった.

    【結論】脳卒中急性期において,入院当日から口腔ケアを早期に介入することは,発熱の減少や誤嚥性肺炎を抑制するなどの短期的効果や,在宅復帰率の増加など中長期的な予後改善,およびQOL 向上に有用であることが示唆された.

短報
  • 吉田 理恵, 神崎 美奈子, 立石 登
    2015 年 19 巻 2 号 p. 145-151
    発行日: 2015/08/31
    公開日: 2020/04/22
    ジャーナル フリー

    【目的】口腔内に顕著な特異性を示すことの多い透析患者に対して,歯科衛生士と看護職・介護職が連携し実施した口腔ケアの効果について検討する.

    【対象】入院中の透析患者のうち,専門的口腔ケアの依頼があり,歯科衛生士による口腔ケア計画書に基づく口腔ケアを3 カ月間継続して実施した12 名である.

    【方法】歯科医師・歯科衛生士が口腔アセスメントシートを使用した口腔内診査を実施した後に,看護職・介護職に対する研修会を実施し,病棟内で行われる口腔ケアを標準化した.口腔ケアは1 日4 回実施し,そのうち1 回は歯科衛生士による専門的口腔ケアであった.

    【結果】今回対象となった透析患者全員に,口腔乾燥症,プラークの付着や舌苔,歯周炎などの顕著な口腔所見が認められた.歯科衛生士による専門的口腔ケアの実施により,プラークおよび舌苔は除去された.また,看護職・介護職に対する研修会の実施と口腔ケアを標準化することで,口腔清掃としての口腔ケアのほかに唾液腺のマッサージ等に取り組むことが可能となった.その結果,口腔乾燥症等が改善したことで,実施3 カ月後の血液検査結果では12 名全員の炎症所見および栄養状態の改善が有意に認められた.

    【考察】透析患者は,口腔内に顕著な特異性を示すことが多いが,歯科衛生士が看護職・介護職と連携をはかることで,プラークの付着や歯周炎,舌苔,口腔乾燥症に対するアプローチを継続的に実施することが可能となった.血液検査結果からは,口腔内所見の改善が,炎症所見および栄養状態の改善につながることが示された.今後もさまざまな領域において,専門的口腔ケアの期待が増すことが予測される.専門的口腔ケアを安全かつ効果的に実施するためには,歯科医師・歯科衛生士と他職種との連携が重要である.本研究は,今後さらに期待される専門的口腔ケアの拡大に向けた取り組みに示唆を与えるものであると考える.

  • 福間 丈史, 木佐 俊郎, 蓼沼 拓, 馬庭 壯吉, 酒井 康生, 仙田 直之, 大田 誠
    2015 年 19 巻 2 号 p. 152-157
    発行日: 2015/08/31
    公開日: 2020/04/22
    ジャーナル フリー

    咬反射および舌挺出反射のある症例に対し,チューブ嚥下訓練を安全かつ容易に実施するため,既存の吸引補助器具の応用を試みた.症例は57 歳男性,クモ膜下出血にて入院となり,右前頭開頭クリッピング術施行.その後,水頭症,脳梗塞を続発しV-P シャント術を実施したが,意識障害,摂食嚥下障害,四肢体幹運動障害を認めた.嚥下機能の維持・改善を目的にチューブ嚥下訓練を計画したが,強い咬反射と舌挺出反射がみられ実施困難であった.そこで,既存の吸引補助器具を応用してチューブ嚥下訓練を実施したところ,これらの反射を抑えることができ,開口を促すときにはK-Point 刺激が必要なものの安全かつ容易にチューブ嚥下訓練を実施できた.

    咬反射と舌挺出反射が強く認められたとしても,既存の吸引補助器具を応用することで,チューブ嚥下訓練を導入しやすくなると考えられた.

  • 田村 文誉, 水上 美樹, 町田 麗子, 児玉 実穂, 保母 妃美子, 礒田 友子, 元開 早絵, 高橋 賢晃, 菊谷 武
    2015 年 19 巻 2 号 p. 158-164
    発行日: 2015/08/31
    公開日: 2020/04/22
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究は,摂食嚥下障害のある子どもをもつ母親の育児負担に与える因子を明らかにすることを目的とした.

    【対象と方法】日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニックで摂食指導を受けている18 歳以下の患児の母親に対し,摂食嚥下障害と育児負担感に関するアンケートの協力を求め,それらのうち記載内容が十分であった34 名の結果について検討した.

    【結果】育児負担感について,社会的制限と子どもに対する負の感情に分類して検討した.子どもについては,社会的制限において月齢が有意な正の相関を示した(r=0.385, p=0.025).負の感情においては,出生順位が一番目のほうがその他よりも有意に点数が高かった(p<0.05).回答者については,社会的制限において相談相手のいない者は,いる者と比較して点数が有意に高かった(p<0.01).

    【結論】障害児への摂食指導を行ううえでは,対象患児の出生順位や母親の孤立状態への配慮が必要と考えられた.

  • ─地域療育センターにおける支援方法の検討─
    髙橋 摩理, 冨田 かをり, 弘中 祥司, 大屋 彰利, 原 仁, 高木 一江
    2015 年 19 巻 2 号 p. 165-171
    発行日: 2015/08/31
    公開日: 2020/04/22
    ジャーナル フリー

    Down症候群の小児(以下,Down症児)の粗大運動発達と離乳開始時期の関係,摂食機能療法開始時期がその後の摂食機能獲得に及ぼす影響等を調査し,地域療育センターにおける支援体制を検討することを目的に本研究を行った.

    対象は,地域療育センター摂食嚥下外来を受診した初診時年齢3歳以下のDown症児62名である.対象児の医療カルテから粗大運動発達の経緯を,摂食カルテから初診時月齢,初診時摂食嚥下機能,離乳開始時期,経過についての情報を得た.また,対象児を初診時月齢18カ月以下の男児(以下EB)19名,同女児(以下EG)24名,初診時月齢19カ月以上36カ月以下の男児(以下LB)10名,同女児(以下LG)9名の4群に分け,各群と初診時の摂食嚥下機能との関連,摂食嚥下機能の獲得時期との関連を検討した.

    Down症児の粗大運動発達には遅れがみられたが,離乳開始時期は定型発達児と同じ時期であった.その結果,座位安定前に離乳を開始している児が多く,安定した姿勢での経口摂取を行うために理学療法との連携が必要と思われた.

    初診時摂食嚥下機能に男女差が認められなかったことから,初診時期(EB・EGとLB・LG間)で比較した結果,摂食嚥下機能獲得までに要する月数は初診時月齢による差がなく,早期から指導を開始することで機能獲得時期も早まると思われた.さらに,機能獲得率はEB・EGで高い項目があり,早期に覚える機能を確実に獲得するためにも,早期介入の有効性が示唆された.また,離乳期の発達に沿った機能獲得を指導することが望ましいと考えられ,センター受診直後から摂食に関する情報を提供し,継続した支援を行える体制を整える必要があると思われた.

症例報告
  • 大島 昇平, 服部 佳子, 木下 憲治
    2015 年 19 巻 2 号 p. 172-178
    発行日: 2015/08/31
    公開日: 2020/04/22
    ジャーナル フリー

    摂食嚥下障害のある子どもへの援助には食べることの意欲を育て,食事を楽しんでもらえるようにしていくことが大切である.しかし,誤嚥性肺炎により,経口摂取が禁止されている経管栄養児では,安全に経口摂取できる条件が整わないと経口摂取を開始することは難しい.今回われわれは,経口摂取を禁止されていた障害児であったが,経口摂取が可能な条件を確認できた症例を経験したので報告する.

    1歳6カ月の障害児が嚥下機能評価のため,小児科主治医の紹介により当院を受診した.重度の精神発達遅滞,呼吸障害,胃食道逆流症があり,過去の誤嚥性肺炎のため経口摂取が禁止されていた.11カ月に気管切開術を,1歳3カ月に胃瘻造設術を施行されて呼吸障害,胃食道逆流症は改善がみられたが,経口摂取は禁止されたままであった.初診時には,喘鳴が認められ,嚥下内視鏡検査でも下咽頭部に唾液の貯留が認められ,嚥下の確認はできなかった.嚥下造影検査においても嚥下が確認できなかったため,嚥下惹起不全と診断し,当科においても経口摂取禁忌と判断した.母親の希望により診察を継続した.母親からの情報では,患児は家では喘鳴がないことが多く,気切孔からの吸引も必要なく,ときどき嚥下音も聞こえるとのことであった.初診後3カ月は診察時に喘鳴が認めたられたが,その後は喘鳴がない時もあった.しかし,検査を試みると喘鳴が出現し,嚥下は確認できなかった.ここまでの経過と母親の情報から,患児は家庭では唾液を嚥下しているが,環境が変化すると唾液が適切に嚥下できなくなり,唾液が下咽頭部に貯留して誤嚥するため喘鳴が出現する可能性が考えられた.初診後8カ月の診察時には,喘鳴がない状態で嚥下造影検査を行ったところ,誤嚥なく嚥下ができることが確認でき,喘鳴のない時には直接訓練による摂食嚥下リハビリテーションが可能と判断した.直接訓練を開始して1年が経過したが,現在のところ誤嚥性肺炎は発症していない.

feedback
Top