日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
短報
重症心身障害児者における食塊移送時の下顎,舌および舌骨の動態の特徴について
藤本 淳平中村 達也岸 さおり稲田 穣上石 晶子
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2020 年 24 巻 1 号 p. 47-55

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抄録

【目的】重症心身障害児者の食塊移送時の下顎,舌,舌骨の動態を健常成人と比較することにより,食塊移送時における重症心身障害児者の摂食嚥下関連器官の動態特徴を明らかにすることを目的とした.

【対象および方法】健常成人14 名(健常群)と重症心身障害児者14 名(障害群)のペースト食品3-5 mLの嚥下を嚥下造影検査(VF)を用いて撮影し,30 フレーム/ 秒で動画記録した.画像上に第二頸椎および第四頸椎を結んだ線分を基準線とする座標系を設定し,フレームごとにオトガイ結節,上顎中切歯舌側歯頸部最下点と喉頭蓋谷最下点を結ぶ直線の中心から放射状に8 等分した直線と舌表面の交点,舌骨体の上端と下端を結んだ直線の中間点,食塊頭部と食塊尾部の座標位置を追尾することで下顎,舌,および舌骨の運動方向ごとの運動開始のタイミングと持続時間を測定した.そして,下顎の咬合位到達から舌の蠕動運動終了までの一連の運動を移送シークエンスとし,健常成人のシークエンス数(1 回)を基準に,健常成人と同等であった者を移送良好群(7 名),健常成人よりも大きかった者を複数回移送群(7 名)に割付け,測定結果を群間比較した.

【結果および考察】群間比較の結果,下顎が咬合位を持続している時間は複数回移送群において健常群(p=0.015)と移送良好群(p=0.002)に比べて有意に短く,舌前方と硬口蓋が接触している時間は健常群(p=0.023)と移送良好群(p=0.001)に比べて有意に短かった.そして,複数回移送群において,下顎の開口開始は舌骨挙上の直後に生じていた.これらの結果より,複数回移送群の食塊移送では,下顎の咬合位が持続しないことにより舌が口蓋から離れてしまうことで食塊移送に必要な舌圧が持続せず,複数回の移送運動を繰り返すといった特徴があると考えられた.

【結論】重症心身障害児者のうち,複数回の移送シークエンスを示した群では,咬合時間および舌前方と口蓋の接触時間が健常成人や食塊の移送が良好な重症心身障害児者に比べて短かった.

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© 2020 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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