日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
症例報告
経口摂取再開に長期経過を要した皮膚筋炎の重度嚥下障害遷延化例
沖田 浩一麦井 直樹福永 真哉八幡 徹太郎染矢 富士子
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2021 年 25 巻 3 号 p. 238-244

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抄録

【はじめに】皮膚筋炎は皮膚症状を有し,四肢近位筋の筋力低下を特徴とする自己免疫疾患である.症状のひとつとして嚥下障害があり,薬物治療が奏功する一方で,手術適応となる例も存在する.今回,経口摂取再開に長期経過を要した皮膚筋炎の重度嚥下障害遷延化例に対して摂食嚥下リハビリテーション治療(以下,嚥下リハ)のひとつとしてバルーン拡張訓練法(以下,バルーン法)を施行し,治療開始後3 年の経過で完全経口摂取に移行できた長期嚥下リハ経過を報告する.

【症例】60 歳代男性.皮膚筋炎(抗OJ 抗体陽性).入院2 カ月前より両肩や上腕,頸部の痛みが出現し,上肢挙上保持困難となった.著明なCK 上昇,嚥下困難の出現を認め当院を受診した.初診時,ヘリオトロープ疹やゴッドロン徴候,体幹・四肢近位筋の筋力低下があった.主訴として食塊の通過障害,鼻咽腔逆流があった.

【経過】初期段階では,全身状態不良,顕著な嚥下障害が持続していたため,積極的な嚥下リハは困難であった.VF では著明な誤嚥,鼻咽腔逆流,咽頭残留,食道入口部の通過障害を認めた.ステロイドパルスやステロイド点滴(初期投与量60 mg/ 日),免疫グロブリン大量静注療法を施行されたが嚥下障害は改善せず,薬物治療は奏功しなかった.入院中にバルーン法を導入したが著効せず,退院後は間接嚥下訓練のみ継続した.治療開始後1 年6 カ月のVF で誤嚥リスクの軽減を確認し,直接嚥下訓練を開始した.治療開始後1 年8 カ月よりバルーン法を再開し,通算2 年の長期経過で軟食摂取可能となった.治療開始後3 年の経過で自由飲水可能となり,完全に経口摂取は自立しバルーン法から離脱した.

【結論】皮膚筋炎に対するステロイド治療薬は維持量となったが,嚥下障害が遷延化した症例を経験した.直接・間接訓練とバルーン法による嚥下訓練により,治療開始後3 年で完全経口摂取可能に至った.

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© 2021 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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