日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
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Print ISSN : 1343-8441
症例報告
高齢者の特発性食道入口部通過障害に対して摂食嚥下訓練が有効であった1 例
松尾 貴央田中 誠也鈴木 啓介高田 輝彦宮本 宜徳岡本 徹山村 誠
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2021 年 25 巻 3 号 p. 245-251

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抄録

【症例】80 代男性.

【現病歴】X 年Y 月食事中の嚥下困難感とムセを自覚し,Y+1 月近医受診.原因不明の嚥下困難症と診断され,Y+2 月嚥下訓練目的で当院紹介.

【介入と経過】初回嚥下造影検査(Videofluoroscopic examination of swallowing:以下,VF)の結果,著明な食道入口部通過障害を認めたため,食道入口部開大を目的に3 カ月間バルーン訓練法を実施した.訓練後のVF で食道入口部通過障害の改善を認めたため,嚥下訓練を終了し経過観察とした.しかし,3 週間後に嚥下障害が再燃し訓練を再開.初回評価時と同様の臨床所見を示したため,再び食道入口部開大の改善を目的に2 カ月間メンデルソン手技を実施した.メンデルソン手技実施時の嚥下反射を補助するため干渉波電気刺激療法を併用した.訓練後のVF にて食道入口部通過障害の改善を示した.また,食塊の食道入口部通過時に輪状咽頭筋圧痕像(Cricopharyngeal Bar:以下CB)を認めた.液体嚥下におけるVF 評価では,訓練開始前の食道入口部開大時間は0.20 秒,バルーン訓練法実施後0.33 秒,メンデルソン手技実施後0.43 秒であった.バルーン訓練法実施後,食塊は食道入口部開大開始時に中咽頭に存在したが,メンデルソン手技実施後は食道入口部の開大と同時に食塊が食道に流入しており,食道入口部開大のタイミングに改善を認めた.介入頻度を週2 回から1 回に減らし3 カ月が経過したが,嚥下障害の悪化を認めていない.

【考察】本症例はCBが認められたことから,特発性輪状咽頭筋嚥下困難症である可能性が疑われた.食道入口部通過障害は食道入口部の開大だけでなく,開大のタイミングも重要とされている.本例では,介入経過に合わせて柔軟に対応した結果,食道入口部開大時間の延長および嚥下関連器官の協調性の改善が得られた.

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© 2021 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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