2022 年 26 巻 1 号 p. 3-9
【目的】舌圧は嚥下機能の指標で,食道がん術後に低下する.その減少量は絶食期間やIntensive care unit(ICU)滞在期間に関連する.しかし,食道がんよりも嚥下機能に関わる組織への侵襲がなく,絶食期間やICU 滞在日数が短い疾患の周術期における舌圧減少は不明である.胃がんの周術期における嚥下スクリーニングが注目されている.本研究の目的は,胃がん患者と食道がん患者における手術前後の舌圧減少率を比較することである.
【対象と方法】対象者は,2016 年1 月から2017 年12 月までに,岡山大学病院と北海道がんセンターで手術を行い,嚥下機能評価を行った患者のうち,年齢,性別,術前舌圧,がんの進行度(ステージ),術前Repetitive Saliva Swallowing Test(RSST)のスコアをマッチングさせた胃がん患者20 名,食道がん患者20 名(年齢40–88 歳,男性26 名,女性14 名)とした.嚥下機能評価として,術前,術後1 週目,2 週目に舌圧とRSST を測定した.また,舌圧に関連する因子として,年齢,性別,ステージ,術式,手術時間・出血量,挿管日数,絶食期間,発熱日数,ICU 滞在期間,術後入院期間,飲酒喫煙習慣を調査した.胃がん患者と食道がん患者の周術期における舌圧の推移と術前舌圧を基準とした舌圧減少率をWilcoxon の符号付順位検定,Two-way ANOVA にて統計分析した.さらに,2 群間で舌圧減少に関連する因子を比較した(Mann-Whitney U 検定,χ2 検定).
【結果】胃がん患者の舌圧減少率は,食道がん患者と比較し,統計学的に有意に小さかった(p=.026).胃がん患者は,食道がん患者と比較し,周術期舌圧に影響を与える手術時間(p<.001),絶食期間(p<.001),ICU 滞在期間(p<.001)が有意に短かった.
【考察】胃がん患者の舌圧減少率が小さい理由として,胃がんの手術は,術野が口腔,咽頭,喉頭から離れており,また手術時間・絶食期間・ICU 滞在期間が食道がんの手術に比べると短いことが関係している可能性がある.
【結論】周術期において,胃がん患者の舌圧減少率は,食道がん患者と比較して小さかった.