日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
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症例報告
肩関節周囲筋の整形外科的選択的痙性コントロール手術後に構音障害と嚥下障害に改善が認められた中心性橋髄鞘崩壊症の1 例
米田 美優倉田 浩充吉見 由衣小松 南小森 梨絵池田 啓一井関 博文
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2022 年 26 巻 3 号 p. 208-214

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抄録

 中心性橋髄鞘崩壊症(以下CPM)による痙性構音障害,嚥下障害が肩関節周囲筋の整形外科的選択的痙性コントロール手術(以下OSSCS)により改善が認められたので報告する.

 症例は汎下垂体機能低下症に罹患した30 歳代女性.発症3 年後にCPM を発症した.急性期治療にて意識は回復したが,痙性四肢不全麻痺,構音障害,嚥下障害が残存し当院に転院した.約3 カ月後に,両上肢の痙縮軽減を目的に両肩関節のOSSCS(広背筋,大円筋,上腕三頭筋長頭,上腕二頭筋長短頭)を施行した.術前,発話時の口唇,舌運動は運動範囲制限あり発話明瞭度4,食事は嚥下調整食3 を一部介助にて摂取していたが,量は少なく時間を要し,ムセも認めた.姿勢はベッドアップ50°で,舌にて食塊を咽頭へ送り込めず,頸部過伸展させることで咽頭へ送り込み,嚥下していた.術後評価では,舌の自動運動が改善し発話明瞭度3~4,食事は術後47 日目に常菜食を箸で自己摂取可能となり,食事摂取時間も大幅に短縮した.

 本症例は四肢麻痺を呈し,痙縮のため日常生活動作障害が強く,構音障害および嚥下障害も認めた.今回のOSSCS は上肢機能の改善を主な目的として施行したが,同時に手指動作,構音障害および嚥下障害の改善も認められた.近年,肩甲骨の位置や体幹の姿勢の違いによる嚥下機能の低下が報告されている.今回,OSSCS により座位姿勢および肩関節と肩甲骨の可動域が改善したことで,舌運動および喉頭の可動域の改善が認められたと考えられた.

 今後,構音障害および嚥下障害の治療において体幹の姿勢,肩関節と肩甲帯へのアプローチも必要であることが示唆された.

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© 2022 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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