2024 年 28 巻 1 号 p. 43-49
誤嚥性肺炎を発症する原因の一つとして,唾液や口腔咽頭分泌物の誤嚥がある.唾液誤嚥防止の対応として,吸引チューブを使用した唾液の低圧持続吸引法がある.しかしこの方法は咬断による吸引チューブの誤嚥,誤飲リスクや吸引チューブを口腔内に保持できないといった問題点が存在する.そのため,体動のある患者や就寝中の使用は困難となる.その問題を解決するために,吸引チューブとマウスピースを一体型にした唾液持続吸引マウスピースの簡易的な口腔内装置を作製し 2 名の摂食嚥下障害患者へ臨床応用したので報告する.
【症例 1】70 歳代,男性.右前頭葉梗塞による嚥下障害,左片麻痺があり回復期病院に転院後,摂食嚥下リハビリテーションを開始した.嚥下内視鏡検査にて唾液誤嚥を認め,夜間の痰吸引を減らすために唾液誤嚥に起因する痰の吸引が頻回であった.そのため,吸引チューブと歯科用マウスピースを一体型とする装置,唾液持続吸引マウスピースを作製し,就寝時に装着するようにした.唾液持続吸引マウスピースを装着前 2 週間と装着後の 2 週間の夜間帯(0 時から 6 時)の痰吸引の回数を比較したところ,8 回から 0回へ減少した.
【症例 2】60 歳代,男性.筋萎縮性側索硬化症による球麻痺のため唾液が口腔内に貯留し,就寝中の痰吸引に家族が苦慮していた.唾液持続吸引マウスピースを作製し就寝中に装着したところ,吸引回数は平均 3 回から 0 回に減少した.
【考察】唾液誤嚥は誤嚥性肺炎の原因のみならず頻回の痰吸引を要し,医療介護負担の原因となる.唾液持続吸引マウスピースの作製は簡易的であり,普及のためにも本法による唾液吸引に関する効果を介入研究で明らかにすることが今後の課題である.