日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
症例報告
反復末梢磁気刺激が有効であったサルコペニアによる摂食嚥下障害の可能性がある維持透析患者の1 例
小菅 康史藤田 志乃江神山 麻美西條 佳代子松本 理恵子横手 佐依信田 和美小川 智美渡邉 ひとみ若林 央憲渡邉 寛之
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2024 年 28 巻 2 号 p. 112-120

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抄録

 【緒言】我が国では透析患者の高齢化によりサルコペニアの合併が増加している.サルコペニアは摂食嚥下障害との明確な関連が指摘されているが,サルコペニアによる摂食嚥下障害に対する治療法のエビデンスは確立されていない.我々はサルコペニアによる摂食嚥下障害の可能性がある,誤嚥性肺炎を繰り返す高齢透析患者に舌骨上筋群への反復末梢磁気刺激(rPMS)を行い良好な結果を得た症例を経験したので報告する.

 【症例】慢性糸球体腎炎を原疾患とする慢性腎臓病のため81 歳時に透析導入となった87 歳男性.これまで誤嚥性肺炎のために複数回の他院入院歴があった.外来維持透析のため当院を紹介受診した際,摂食嚥下障害臨床的重症度分類3,舌圧は21.1 kPa,頸部屈曲筋力は8.1 N,開口筋力は53.6 N であった.当院への通院開始後2 週間で発熱,咳嗽が出現し誤嚥性肺炎の診断で入院した.肺炎は抗菌薬の投与で軽快した.骨格筋指数,握力,歩行速度の測定では重症サルコペニアの状態であり,嚥下造影検査(VF)では喉頭挙上不良,喉頭侵入と咽頭残留を認め,サルコペニアによる摂食嚥下障害の可能性があると考えられた.Shaker exercise などの訓練を十分な頻度と強度で実施することが困難であったため,舌骨上筋群の筋力増強を期待しrPMS を週に4 日,合計8 週間実施した.rPMS による有害事象はなく,また疼痛もなく予定通りの回数を実施可能であった.8 週間後の筋力測定では,舌圧は29.4 kPa,頸部屈曲筋力は16.4 N,開口筋力は61.7 N であった.VF では,食道入口部を通過する食塊の量が増加し,咽頭残留は軽減,舌骨移動距離が向上した.

 【考察】サルコペニアによる摂食嚥下障害の可能性がある高齢透析患者に対し,rPMS を行い舌骨上筋群の筋力増強を認めた.rPMS は疼痛が少なく短時間で実施可能であることからも,高齢透析患者の舌骨上筋群の筋力増強のための訓練方法の一つとして考慮され得る可能性が考えられた.

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© 2024 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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