1999 年 3 巻 1 号 p. 21-28
口蓋を口蓋床で被覆した5名の被験者の咀嚼運動様式を,軟らかい食物(0.5および1.0%寒天ゼリー)と硬い食物(クッキー)をモデル試料に使用して,videofluorographyにより検討した.得られた結果より,摂取食物のテクスチャー認知における口蓋の役割について考察した. 軟らかい食物(寒天ゼリー)を咀嚼させた場合,口蓋床を装着すると,無装着時と比較して,咀嚼回数の増加および嚥下開始までの時間の延長が認められた.さらに,0.5%寒天ゼリーでは,粉砕方法を無装着時の舌と硬口蓋による圧縮から,歯列による咬断へと変化させた被験者が出現した.そのため,口蓋床の装着は,咬断開始の硬さの閾値の低下を引き起こすことが判明した.これらの変化は,口蓋床の装着によって切歯乳頭部近傍が被覆されたことにより,摂取食物のテクスチャー認知機構が障害されたためと推察された.以上の結果より,摂取食物のテクスチャー認知には,口蓋が関与していることが確認された. 一方,硬い食物(クッキー)を咀嚼させた場合にも,口蓋床装着により,咀嚼回数の増加および嚥下開始までの時間の延長が認められた.これらの変化は,軟らかい食物の場合とは異なり,舌の運動性や唾液の分泌などの影響も関係していると推察されるので,今後さらに検討が必要であると思われた.