日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
原著
嚥下時における口唇および舌運動の同時解析
―CCDカメラと超音波診断装置の併用―
石田 瞭蓜島 弘之大塚 義顕向井 美惠
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1999 年 3 巻 1 号 p. 10-20

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抄録

口唇機能は口腔期において非常に重要な役割を果たしているが,摂食・嚥下の機能観点からなされた研究が少ないのが現状である.本研究は口腔期の主体をなしながらも直接的観察の難しい舌と,口唇との嚥下遂行時における動的関連性について解明を試みた.対象は29名の健康な成人であり,高解像度CCDカメラによる口唇動態と,超音波診断装置による舌動態とを同一時間軸において,定量,定性的二次元運動解析を行った.その結果,以下に示す知見が得られた.

1.口角の外側への牽引動作が,明らかに舌背の口蓋への挙上動作よりも先行する傾向を示したことから,口唇動作開始時(LS)を共通の運動基点とし,双方の経時変化をみることが,妥当と思われた.

2.嚥下時における口唇幅の変化程度を検討した結果,LS-LP間の平均変化量は5.6mmであった. LS,LPとの間には口唇幅の違いに有意差があること,また,平均変化量が口唇可動範囲のうち23.5%を占めることをも含め,健康成人において,ほぼ確実に嚥下による口角部の牽引がみられることが示唆された.

3.口唇,舌動作における嚥下開始から,終了までの所要時間は,平均2.56秒であった.

4.LSを基点とした場合,各測定項目の発現時間は,個人差が大きかった.しかし,個人変動係数の平均値が小さかったことから,口唇と舌の嚥下動作は,個人ごとに一定になされていることが示唆された.

5.各測定項目の発現様相をまとめると,咀嚼に引き続き口角部が勢い良く外側へ牽引を開始し,これが舌の口蓋への挙上動作を促し食塊を咽頭へ移送する,という順で経時的に嚥下運動がなされていることが推察された.以上より,口唇の動きから嚥下の開始のみならず,舌運動動態を推定することも十分可能と思われた.

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© 1999 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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