日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
3 巻, 1 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
原著
  • 宮岡 洋三, 小池 由紀, 宮岡 里美
    1999 年3 巻1 号 p. 3-9
    発行日: 1999/06/30
    公開日: 2019/06/06
    ジャーナル フリー

    口腔内にある食塊量を知る感覚機構や至適な一回嚥下量を決定する能力は,摂食や嚥下機能を円滑に遂行する上で重要であるにもかかわらず,近年まで研究がなかった.藤島らは,摂食・嚥下障害者や健常者を対象に,これらの能力を調べる検査を初めて導入した。本研究は,藤島らの検査方法を踏まえ,これらの機構や能力への理解を深めることを目的として計画された.健常な女子学生36人を実験対象とした.被験者には,先ず基準量として10.0mlと20.0mlの水を口腔に含ませ,それらの量を記憶させた.その後,被験者に基準量と推定される水を口腔で採らせた.その結果,10.0ml基準量では10.6±0.86ml(平均値±SD,5試行)となり,20.0 mlでは20.2±1.45mlとなった.また,10.0mlを基準量とする実験では,採水量と試行間の変動との間にr=0.540という統計的に有意な正相関(p<0.01)がみられたが,20.0mlの実験ではみられなかった.至適一回嚥下量を決定する実験では,被験者に米菓(長径が約21mm,短径が約7mm,厚さが約4 mmで三日月形)の粒数を順次増やさせ,各自の嚥下に最も適した数を決めさせた.その結果,平均で4.4粒(およそ1.1g)という値がえられた.また,至適一回嚥下量の米菓を1~2分の間隔をあけて3回食べさせ,主観的嚥下容易度/困難度の変化を調べたところ,嚥下容易度/困難度はほとんど変わらずに安定していた.さらに,身体サイズと至適一回嚥下量との関係を調べたところ,身長と至適一回嚥下量との間には弱い正相関(r=0.402,p<0.05)がみられたが,体重やBMI(Body Mass Index)との間には相関がなかった.以上の結果から,健常者が口腔内にある食塊量を知る高い能力をもつことがわかった.また,固形物における至適一回嚥下量を決める上での要因について考察した.

  • ―CCDカメラと超音波診断装置の併用―
    石田 瞭, 蓜島 弘之, 大塚 義顕, 向井 美惠
    1999 年3 巻1 号 p. 10-20
    発行日: 1999/06/30
    公開日: 2019/06/06
    ジャーナル フリー

    口唇機能は口腔期において非常に重要な役割を果たしているが,摂食・嚥下の機能観点からなされた研究が少ないのが現状である.本研究は口腔期の主体をなしながらも直接的観察の難しい舌と,口唇との嚥下遂行時における動的関連性について解明を試みた.対象は29名の健康な成人であり,高解像度CCDカメラによる口唇動態と,超音波診断装置による舌動態とを同一時間軸において,定量,定性的二次元運動解析を行った.その結果,以下に示す知見が得られた.

    1.口角の外側への牽引動作が,明らかに舌背の口蓋への挙上動作よりも先行する傾向を示したことから,口唇動作開始時(LS)を共通の運動基点とし,双方の経時変化をみることが,妥当と思われた.

    2.嚥下時における口唇幅の変化程度を検討した結果,LS-LP間の平均変化量は5.6mmであった. LS,LPとの間には口唇幅の違いに有意差があること,また,平均変化量が口唇可動範囲のうち23.5%を占めることをも含め,健康成人において,ほぼ確実に嚥下による口角部の牽引がみられることが示唆された.

    3.口唇,舌動作における嚥下開始から,終了までの所要時間は,平均2.56秒であった.

    4.LSを基点とした場合,各測定項目の発現時間は,個人差が大きかった.しかし,個人変動係数の平均値が小さかったことから,口唇と舌の嚥下動作は,個人ごとに一定になされていることが示唆された.

    5.各測定項目の発現様相をまとめると,咀嚼に引き続き口角部が勢い良く外側へ牽引を開始し,これが舌の口蓋への挙上動作を促し食塊を咽頭へ移送する,という順で経時的に嚥下運動がなされていることが推察された.以上より,口唇の動きから嚥下の開始のみならず,舌運動動態を推定することも十分可能と思われた.

  • 新井 映子, 加藤 一誠, 田中 みか子, 木内 延年, 山田 好秋
    1999 年3 巻1 号 p. 21-28
    発行日: 1999/06/30
    公開日: 2019/06/06
    ジャーナル フリー

    口蓋を口蓋床で被覆した5名の被験者の咀嚼運動様式を,軟らかい食物(0.5および1.0%寒天ゼリー)と硬い食物(クッキー)をモデル試料に使用して,videofluorographyにより検討した.得られた結果より,摂取食物のテクスチャー認知における口蓋の役割について考察した. 軟らかい食物(寒天ゼリー)を咀嚼させた場合,口蓋床を装着すると,無装着時と比較して,咀嚼回数の増加および嚥下開始までの時間の延長が認められた.さらに,0.5%寒天ゼリーでは,粉砕方法を無装着時の舌と硬口蓋による圧縮から,歯列による咬断へと変化させた被験者が出現した.そのため,口蓋床の装着は,咬断開始の硬さの閾値の低下を引き起こすことが判明した.これらの変化は,口蓋床の装着によって切歯乳頭部近傍が被覆されたことにより,摂取食物のテクスチャー認知機構が障害されたためと推察された.以上の結果より,摂取食物のテクスチャー認知には,口蓋が関与していることが確認された. 一方,硬い食物(クッキー)を咀嚼させた場合にも,口蓋床装着により,咀嚼回数の増加および嚥下開始までの時間の延長が認められた.これらの変化は,軟らかい食物の場合とは異なり,舌の運動性や唾液の分泌などの影響も関係していると推察されるので,今後さらに検討が必要であると思われた.

  • 鄭 漢忠, 高 律子, 上野 尚雄, 原田 浩之
    1999 年3 巻1 号 p. 29-33
    発行日: 1999/06/30
    公開日: 2019/06/06
    ジャーナル フリー

    反復唾液嚥下テスト(Repetitive Saliva Swallow Test,以下RSSTと略す)は才藤(1996年)が考案した摂食・嚥下障害のスクリーニング法である.本法では30秒以内に唾液を3回以上嚥下できれば摂食・嚥下機能は良好と判定される. 今回,摂食・嚥下障害のスクリーニングにRSSTが有用であるかどうか検討するため,札幌ならびに近郊の老健施設16施設,特別養護老人ホーム1施設計17施設の入所高齢者1098名を対象にRSSTの回数と摂食・嚥下障害の有無との関連性を調査した.摂食嚥下障害の有無は看護婦あるいは直接介護にあたるもののが入所者の食事中あるいは食後の観察から判定した. 対象の男女比は1:2.5で女性が多く,平均年齢は82.2歳であった.1098名中1048名(95.4%)にRSSTが可能であった.RSSTが可能であった1048名中137名(13.1%)に摂食嚥下障害を認めた.1048名中392名(37.4%)は反復唾液嚥下が3回以上可能であり,残り656名(62.6%)は2回以下であった.RSSTの各回数とその群における摂食・嚥下障害を有する者の割合をみると,回数の多い群ほど摂食・嚥下障害を有する者の割合は低かった.2回以下と3回以上の群における摂食・嚥下障害を有する者はそれぞれ110名と27名であり,両群間には有意差がみられた(p<0.001). 3回以上を機能良好とした場合の本法の検査能力はsensitivity 80.3%, specificity 40.1%であった. 以上の結果より,RSSTは施設入所の高齢者における摂食嚥下障害のスクリーニングに有用であると考えられた.

  • 道脇 幸博, 横山 美加, 小澤 素子, 道 健一, 大越 ひろ, 高橋 智子, 広田 恵実子, 埋橋 祐二, 小島 正明
    1999 年3 巻1 号 p. 34-39
    発行日: 1999/06/30
    公開日: 2019/06/06
    ジャーナル フリー

    寒天を基剤としイオパミドールを含有する嚥下機能の検査食を試作した.イオパミドールを使用することで,従来の消化管造影剤に比べて安全性が向上したと考えられる.またイオパミドールを1/2濃度にしても造影性の低下はわずかで,画像解析に支障は無いことが確認された.さらに本検査食では物性を規格化することが可能である. 今回は付着エネルギーの低い食材で,硬さの異なる6種類の試験食品を試作した.その硬さは検査食1から順にそれぞれ,2.20×102N/m2,6.53×102N/m2,2.90×103N/m2,7.49×103N/m2,1.09×104N/m2,1.86×104N/m2であった.口腔癌患者1例に応用したが,硬さの相違により誤嚥や咽頭部への貯留の程度に明らかな相違が見られた.そのため,本検査食は食物の物性と嚥下機能との関連を検討するために有用であると考えられた.

臨床報告
  • ~「第2回摂食・嚥下リハビリテーションに関するアンケート」の結果より~
    鈴木 めぐみ, 小口 和代, 深谷 直美, 竹内 千年, 才藤 栄一
    1999 年3 巻1 号 p. 40-44
    発行日: 1999/06/30
    公開日: 2019/06/06
    ジャーナル フリー

    日本摂食・嚥下リハビリテーション学会会員を対象に,摂食・嚥下リハビリテーション(以下摂食・嚥下リハ)の現状を知るために,2度目のアンケート調査を実施した.今回は,第1次調査で「自施設にて摂食・嚥下リハを行っている」と回答のあった施設を対象とし,186施設からの回答を得た。回収率は63%であった. 摂食・嚥下リハを行う際の問題点として,「検査が不十分」という回答が最も多かった.実際に実施されている評価をみるとvideofluorography(VF)は約半数の施設でしか行われておらず,何の評価も行っていない施設も存在した.一方,摂食・嚥下リハに伴う危険として,誤嚥は高く意識されているにもかかわらず,脱水や低栄養への認識は低く,危険に対する認識の偏りがみられた. 関与する職種数から,歯科・医科診療所では1-2職種でリハに取り組むことが多く,その他の施設では3職種以上の複数職種で取り組んでいた.また各職種の役割分担をみると,評価では医師とST,治療ではST,看護婦が多く関与していた.また,PTは間接訓練,OTは先行期訓練に関与し,チームリーダーとなるのは医師が多かった.このことから,多くの施設でチームアプローチが行われており,各職種の専門性を生かした役割分担がなされていることが明らかになった.また,一連の調査結果から,多くの施設が不十分な検査に不安を覚えながらも訓練を行い,一方で危険に対する認識が不足している現状が明らかになった.そして簡便な機能テストの確立と普及,地域における施設問の連携の確立が今後解決されるべき課題として示唆された.摂食・嚥下リハビリテーション学会を中核とした,活発な活動が望まれる.

  • ―第2報 1997年から1998年までの変化―
    竹内 千年, 小口 和代, 才藤 栄一
    1999 年3 巻1 号 p. 45-47
    発行日: 1999/06/30
    公開日: 2019/06/06
    ジャーナル フリー

    摂食・嚥下リハ学会員の地域分布,職種を把握することを目的とし,1998年10月31日時点で会員名簿に登録されている2411名を対象とし,都道府県別集計と職種別集計を行った.あわせて昨年度データとの比較を行い,その差違について検討した. 会員数は,2411名で,昨年度より502名,前年度比126%と大幅に増加していた. 地域別では,大都市を含む都道府県,地域の会員数の割合が高かった.会員数の前年度比を見ると,会員数の少なかった北海道158%,四国154%,東北144%,中国143%で高くなっており,全国的な摂食・嚥下リハの浸透が示唆された.また,人口10万人当たりの会員数は,関東2.82人,中部2.46人と北海道0.72人の間には,3倍以上の開きがあり地域間の格差が存在した.今後も会員数の少ない地域・県への積極的な啓蒙活動が必要と思われる.職種別では,前年度比が栄養士145%,歯科医師143%と高くなっており,増加人数では,ST(465名,昨年度より97名増),歯科医師(402名,121名増)が多かった.歯科医師,歯科衛生士合わせると会員の約25%を占め,歯科領域の職種が,摂食・嚥下リハの中で大きな役割を果たしていくことが予想される.また,学会の最多数であるSTの国家資格化に伴い,摂食・嚥下リハにおけるSTの一層の活躍が期待される. 学会発足3年目を迎え,摂食・嚥下リハのさらなる発展のため,学会による積極的な啓蒙活動が望まれる.

臨床ヒント
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