2000 年 4 巻 1 号 p. 41-47
今回,我々は頸部ガス壊疽治療後に嚥下障害をきたした2症例をほぼ同時期に経験した.参考とする報告例も少なく,試行錯誤しながら行った訓練経過を示すことは意義あることと考え,報告した.
症例1は75歳男性.症例2は63歳女性の頸部ガス壊疽例で,1998年11月に前後して治療した.
2例とも1ヶ月後に炎症は軽快したが抜管困難にて気管切開を要し,更に経口摂取不能であった. 2例とも1999年1月6日より訓練を開始した.症例1は喉頭挙上不全,鼻咽腔閉鎖不全,重度誤嚥が認められた.精神的苛立ちが目だち,脳梗塞の併発も考えMRIを施行すると,多発性脳梗塞像を認めた.嚥下障害は炎症後の拘縮に加え,脳神経Ⅶ,IX,Xの麻痺によるものと考えられた.訓練では,特に経口的カテーテル挿入訓練 (以下カテーテル挿入訓練) を導入すると,ものを口から入れるという心理効果が大きく経口摂取への自信が生まれ,3月にはほぼ普通食摂取可となった.症例2は,症例1より炎症が強く,頸部の弾力性が失われ固く,喉頭自体が固定し嚥下運動が不能で重度誤嚥が認められた.また喉頭浮腫を認め梨状陥凹も閉鎖していた.嚥下障害は炎症後の咽喉頭の浮腫と癩痕化による咽頭食道狭窄が原因と考えられた.訓練では効果が得られず,経管栄養チューブの交換も困難で保存的には改善困難と判断され嚥下改善術施行.術後にカテーテル挿入訓練と間欠的バルーン拡張法 (以下バルーン法) を導入すると,嚥下機能が大きく改善し4月には経口摂取可能となった.
予想もしなかった炎症軽快後の嚥下障害に,患者同様,医療側も動揺し,入院の長期化で患者の精神的不安が目立った.頸部ガス壊疽治療後の嚥下訓練では,局所の病態変化,患者の心理状態の変化に配慮する必要があった.カテーテル挿入訓練は特に心理効果が大きく,バルーン法は直接的な嚥下機能改善に役立った.