日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
4 巻, 1 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
原著
  • 高橋 智子, 川野 亜紀, 大越 ひろ, 大塚 義顕, 向井 美惠
    2000 年4 巻1 号 p. 3-10
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    極めて粘稠な硬さに調整したムース状食品の力学的特性と飲み込み特性,および超音波断層法による嚥下時の舌運動について検討を行った.市販にんじんうらこしに,加工デンプンが主原料の市販増粘剤を添加した試料をデンプン系試料,グアガムが主原料の市販増粘剤を添加した試料をグアガム系試料とした.力学的特性のテクスチャー特性では,硬さ,凝集性,付着エネルギーの何れについても,2種の試料間に有意差は認められなかった.一方,バネ緩和法により得られた降伏応力は,デンプン系試料がグアガム系試料に比べ,有意に小さいことが認められた.官能評価による飲み込み特性は,デンプン系試料はグアガム系試料に比べ,有意にべたつき感があり,飲み込みにくく,残留感があると評価され,飲み込み特性が劣っていることが示唆された.また,降伏応力が小さく,飲み込みにくいと評価されたデンプン系試料はグアガム系試料に比べ,嚥下時に舌背正中部がより深く陥凹し,また,陥凹している時間も長くなる傾向が示唆された.

    以上の結果より,舌と上顎により生じる食物の変形により,口中で広がりやすい食物であるほど,べたつき感があり,飲み込みにくく,残留感を感じる.また,食塊としてまとめるために,嚥下時に舌の中央部がより深く陥凹し,陥凹している時間も長くなるものと推測される

  • ―自験例の検討より―
    平松 隆, 栗田 慶子, 大西 将美, 村井 道典, 野村 有希
    2000 年4 巻1 号 p. 11-19
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    嚥下リハビリテーション(嚥下リハと略す)は多職種によるチームアプローチが理想とされる.しかし現状は,施設や地域により,関わっている職種もその関わり方もさまざまである.当院では1997年より耳鼻咽喉科(耳鼻科と略す)医と言語聴覚士(STと略す)が中心となり嚥下リハを行ってきたが,主治医,看護婦,栄養士,リハビリスタッフなどとの連携が円滑とはいえず,誰がどのように関わり合えばよいか不明の点が多かった.画一的にはチームアプローチを論ずることはできないがチームアプローチを行う上で施設問の関わる職種の差を超えた共通の問題は多いと考えられる.各施設の問題点を明らかにし施設毎の嚥下リハの限界と解決策を呈示することは,他施設の今後のチームアプローチのあり方を考えるのにも役立つと考え,我々の経験した嚥下リハ症例を検討した.

    検討対象は耳鼻科医が直接嚥下リハに関わった6症例である.各症例について,誰が訓練の必要性を感じたか,誰が検査し評価したか,誰が訓練をおこなったかを中心に,VE, VFの実施状況を併せて振り返り,耳鼻咽喉科医とSTの立場からみた問題点を検討した。それぞれ視点は異なるものの,特に,主治医の嚥下障害に対する認識不足が共通の問題点として挙げられた.嚥下リハのリーダーとしての医師の不在がチームリハ実現の大きな妨げになっていると考えられた.

    現状ではすべての施設でリハ医などを中心とした嚥下チームが組織できるとは限らない.今後,嚥下リハを向上させるためには,主治医が嚥下障害に対する認識を高め,嚥下リハに関わる各職種の役割を理解した上でチームの中核になる必要がある.そのためには,まず施設に応じた嚥下リハをおこないながら,主体となっている職種が,主治医や他職種と積極的に情報交換をすることで啓発活動を行っていくことが重要であると考える.

  • ―歯科用エックス線規格写真による3~8歳児の検討―
    蓜島 弘之, 蓜島 桂子, 向井 美惠, 野田 忠
    2000 年4 巻1 号 p. 20-27
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    3~8歳の嚥下関連器官のうち軟口蓋下端,喉頭蓋上端,舌骨,咽頭食道接合部の位置変化について,歯科用エックス線規格写真を用いて検討した.

    中咽頭の長さの指標となる軟口蓋下端と喉頭蓋上端の直線距離は増齢に伴ない有意に伸長し(p<0.01),3歳児の全体の平均は11.5±3.4mm,8歳児の全体の平均は19.0±4.0mmであった.また,特に第一大臼歯の萌出期・咬合完了期である5~7歳にかけての増加が著しかった.嚥下関連器官の成長方向を検討するため,第一基準座標(X軸:トルコ鞍中央部(S)とナジオン(N)を結ぶ直線,Y軸:S点を通りX軸に垂直な直線),第二基準座標(X軸:第二頚椎前下端部を通りY軸に垂直な直線,Y軸:第二頚椎・第五頚椎の前下端部を結んだ直線),第三基準座標(X軸:S点を通りY軸に垂直な直線,Y軸:第二頚椎・第五頚椎の前下端部を結んだ直線)の3種類の基準座標を設定した.その結果,各年齢層の各計測点が第三基準座標において最も収束し,成長方向の検討には第三基準座標が適当と考えられた.さらにこの第三基準座標を用いて嚥下関連器官の成長方向について検討したところ,男女児とも増齢に伴ない各計測点は有意に下方変位していた(p<0.01).3歳と8歳の平均Y軸絶対値の比をとり変位率として各計測点で比較すると,男女児それぞれ,軟口蓋:118.4%,118.0%,喉頭蓋:124.2%,121.2%,舌骨:116.2%,114.5%,UES:123.4%,127.8%となり,計測点により違いが認められた.各計測点の増齢に伴なう変位率の違いが,咽頭全体に占める中咽頭の割合の増大に関与しているものと考えられた.

  • 道脇 幸博, 横山 美加, 道 健一, 大越 ひろ, 高橋 智子, 広田 恵実子
    2000 年4 巻1 号 p. 28-32
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    摂食・嚥下障害者に適していると考えられている27種類の食物の硬さと付着エネルギーを分析した.その結果,食品の形態は1)均質ゾル,2)粘稠ゾル,3)不均質粘稠ゾル,4)ゾルとゲルの混合,5)均質ゲル,6)不均質ゲルの6型に分類された.

    27種類の食晶中,硬さの最小値は1.87×102N/m2,最大値は3.51×104N/m2であり,付着エネルギーについては最小値が4.66×10J/m3,最大値が1.14×103J/m3,凝集性については最小値が0.08,最大値が0.99であった.したがってほとんどの嚥下訓練食の硬さは2×104N/m2以下,付着エネルギーは2×102J/m3以下であり,軟らかくて付着エネルギーも低いものが嚥下訓練食として頻用されていることが裏づけられた.またテクスチャー特性によって嚥下訓練食を類型化できる可能性が示された.

臨床報告
  • 野島 啓子, 林田 哲郎, 藤谷 順子, 田中 こずえ, 三島 佳奈子
    2000 年4 巻1 号 p. 33-40
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    ジストニアが出現した後,嚥下障害が徐々に悪化した症例に対し,リラクゼーションと寒冷刺激を中心とした訓練を実施し,藤島の嚥下Grade5Aから7Aに改善する成果が得られた.症例の嚥下透視検査を分析し,考察を加えた.

    〈症例〉18歳男性.8歳時,ギランバレー症候群の加療中に無酸素性脳障害発症.後遺症として,四肢体幹失調,仮性球麻痺,下肢筋力低下,action myoclonusが残るものの車イスにてADLはほぼ自立していた.しかし17歳5ヶ月でジストニア出現を契機に,他院にて嚥下訓練をうけたものの徐々に嚥下障害が悪化し,11ヶ月後誤嚥性肺炎をきたし当院入院.

    〈経過〉摂食状態の観察,嚥下透視検査結果から咽頭期障害として嚥下反射惹起大幅遅延,食道入口部開大不十分,嚥下反射と食道入口部開大の連動不全等が認められた.嚥下障害の背景として①ジストニア,②嚥下パターン形成器(いわゆる嚥下中枢)への入力の障害,③飲み込もうとする過剰な努力を考え,円滑な嚥下運動が可能な条件を作ることを目標に訓練を実施した.嚥下状態は徐々に改善し,入院後約3ヶ月で全粥軟菜極キザミ食が40分以内で摂取可能ととなった.

    〈分析結果と考察〉嚥下透視検査のビデオ映像の分析から嚥下反射惹起までの時間の短縮と嚥下運動パターンの変化(舌骨,喉頭の動く方向が上方から前方に変化)が認められた.これらの変化について嚥下パターン形成器の概念を用いての説明を試みた.また本例の嚥下障害は無酸素性脳障害発症後長期間経てからの脳幹の二次的変性によるものと考えられた.

  • 栗田 慶子, 平松 隆, 大西 将美, 村井 道典
    2000 年4 巻1 号 p. 41-47
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    今回,我々は頸部ガス壊疽治療後に嚥下障害をきたした2症例をほぼ同時期に経験した.参考とする報告例も少なく,試行錯誤しながら行った訓練経過を示すことは意義あることと考え,報告した.

    症例1は75歳男性.症例2は63歳女性の頸部ガス壊疽例で,1998年11月に前後して治療した.

    2例とも1ヶ月後に炎症は軽快したが抜管困難にて気管切開を要し,更に経口摂取不能であった. 2例とも1999年1月6日より訓練を開始した.症例1は喉頭挙上不全,鼻咽腔閉鎖不全,重度誤嚥が認められた.精神的苛立ちが目だち,脳梗塞の併発も考えMRIを施行すると,多発性脳梗塞像を認めた.嚥下障害は炎症後の拘縮に加え,脳神経Ⅶ,IX,Xの麻痺によるものと考えられた.訓練では,特に経口的カテーテル挿入訓練 (以下カテーテル挿入訓練) を導入すると,ものを口から入れるという心理効果が大きく経口摂取への自信が生まれ,3月にはほぼ普通食摂取可となった.症例2は,症例1より炎症が強く,頸部の弾力性が失われ固く,喉頭自体が固定し嚥下運動が不能で重度誤嚥が認められた.また喉頭浮腫を認め梨状陥凹も閉鎖していた.嚥下障害は炎症後の咽喉頭の浮腫と癩痕化による咽頭食道狭窄が原因と考えられた.訓練では効果が得られず,経管栄養チューブの交換も困難で保存的には改善困難と判断され嚥下改善術施行.術後にカテーテル挿入訓練と間欠的バルーン拡張法 (以下バルーン法) を導入すると,嚥下機能が大きく改善し4月には経口摂取可能となった.

    予想もしなかった炎症軽快後の嚥下障害に,患者同様,医療側も動揺し,入院の長期化で患者の精神的不安が目立った.頸部ガス壊疽治療後の嚥下訓練では,局所の病態変化,患者の心理状態の変化に配慮する必要があった.カテーテル挿入訓練は特に心理効果が大きく,バルーン法は直接的な嚥下機能改善に役立った.

  • ― 症例報告 ―
    道脇 幸博, 横山 美加, 衣松 令恵, 小澤 素子, 道 健一
    2000 年4 巻1 号 p. 48-52
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

    Wallenberg症候群患者の嚥下動態をX線ビデオ透視検査(以下VF)によって定量的に評価した.患者は69歳男性で,嚥下障害を主訴に来院した.経管栄養のままで軟口蓋挙上装置を併用した基礎的な摂食訓練を行ったところ,約2か月で常食の嚥下が可能になった.しかし退院後も固形物の嚥下困難を訴えていたため,VF検査を行ったところ,食道入口部の弛緩不全が認められたので,輪状咽頭筋切断術を行った.手術前後の嚥下機能をVF検査によって,定量的,定性的に分析したところ以下の結果が得られた.

    治療開始前と治療終了後のVFの結果を健常人と比較すると喉頭挙上開始時間,食道入口部到達時間,食道入口部開大時間のすべてにおいて健常人の2SDを越え,特に喉頭挙上開始時間と食道入口部到達時間が顕著に延長していた.治療前後の比較では,喉頭挙上開始時間,食道入口部到達時間がやや改善していた,これらの結果からWallenberg症候群患者では,輪状咽頭筋弛緩不全のみならず,喉頭挙上開始時間や食道入口部到達時間の延長もみられ,嚥下の咽頭期の全般にわたって障害がみられることが明らかとなった.

  • ―第3報 1997年から1999年までの3年間の変化―
    竹内 千年, 小口 和代, 小野木 啓子, 才藤 栄一
    2000 年4 巻1 号 p. 53-57
    発行日: 2000/06/30
    公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

     全国の摂食・嚥下リハの普及の状況を知るため,1999年10月31日時点で会員名簿に登録されている2928名を対象とし,摂食・嚥下リハ学会員の構成について地域別,職種別に注目してその動向を分析した.また,同時に1997年から1999年の3年間の変化についても検討した. 総会員数は2928名で,前年度より517名と大幅に増加していた.地域別では,全体に占める割合の上位3位は,関東46.3%,中部14.0%,関西11.1%であった.また,人口10人当たりの会員数は,最多の関東と最少の北海道との間に約3倍の開きがあり,前年度とほとんど変化がなく地域間の格差が存在した.今後の摂食・嚥下リハ学会の活動により,摂食・嚥下リハの普及の地域格差を改善することが期待される. 職種別では,上位3職種は前年度と同じく言語聴覚士584名,歯科医師533名,看護婦453名であった. 3年間の変化を見ると,会員数の多い職種は言語聴覚士,歯科医師,看護婦であった.なかでも歯科医師と言語聴覚士の会員数の増加が目立った.会員数の増加率では,歯科医師,栄養士,医師,言語聴覚士の順に高く,幅広い職種で摂食・嚥下リハへの関心が高まっていることが裏付けられた. 今後,さらに増加することが予想される摂食・嚥下リハに取り組む歯科医師,歯科衛生士が,地域の摂食・嚥下リハの中心的な役割を担っていくためには,歯科診療所と病院との連携が重要である.また,今年4月から施行される介護保険制度において,摂食・嚥下障害は介護に関わる留意点として取り上げられている.それに携わる介護関連職種への摂食・嚥下リハ教育は,摂食・嚥下リハ学会に課せられた重要な課題である.

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